【ベイジアン推定法について】                        メインメニューへ戻る

 薬物投与設計をする場合、患者個人の薬物動態パラメータを知る必要がある。パラメータ推定の方法は、血中(血漿中)濃度測定値に薬物動態モデル式(例えば静注1-コンパートメントモデル)を非線形最小二乗法によって当てはめることで行われる。しかしこの方法では、正確さを期するためには1人の患者から最低4〜5点以上の測定値が必要なため、臨床現場において患者の倫理的問題、時間・コスト問題等で実施不可能な事が多い。

 一方、ベイジアン法はパラメータ推定に血中(血漿中)濃度測定値のみならず母集団でのモデルパラメータの平均値、分散値(標準偏差値)、さらに体重やクレアチニンクリアランス等の影響因子も含めた解析を行い、個体間変動および個体内変動が考慮される。これらの性格のため、最低1点の測定値からでも患者の動態パラメータを推定し、患者個々の薬物投与設計が可能となる。1点の測定値からでもパラメータ推定が可能であるという現実的容易性から、ベイジアン法は臨床で非常に評価されている。

 ベイジアン法は母集団のパラメータを解析する母集団薬物動態解析の結果が必要であるが、情報開示・添付文書の改定が行われつつある現在は、製薬会社でも市販後調査、新薬開発の機会に母集団薬物動態解析が行われ、ますますベイジアン解析をするうえでよい環境になってゆくと思われる。

ベイジアン法の理論

Pj を患者の動態パラメータ、パラメータの個数をm、母集団パラメータの平均と分散をそれぞれPj ωj 2とする。また、Cpiを時刻 ti における血中(血漿中)濃度データ、濃度データ数をn、濃度データの誤差の分散をσ 2f( ti , P)を動態モデル式に基づく予測値とする。ωj 2σ2はそれぞれ個体間変動(誤差)の分散、個体内変動(誤差)の分散とも言われる。

TDMによる患者個別の投与設計を行う上では、患者の動態パラメータを知ることが必要である。患者から多数の血中(血漿中)濃度データが得られれば、通常の最小二乗法が適用できる。最小二乗法とは濃度データCpiと予測値f( ti , P)の誤差を最小化させる解析方法で、以下の目的関数OBJを最小にするパラメータを決定する

 

 

しかし濃度データが1〜2点程の少数点しか得られない場合は、通常の最小二乗法ではパラメータが決定しない。この場合はベイジアン法を適用することによってパラメータの決定が可能となる。ベイジアン法とは事前に得られているパラメータの平均および分散の情報を利用した解析方法で、以下の目的関数OBJを最小にするパラメータを決定する

   

第1項は患者の濃度データに関係しており、通常の最小二乗法と同じ式である。第2項は母集団動態パラメータに関係しており、パラメータの決定に必要な情報を提供している。これらの母集団動態パラメータの平均および分散情報は文献値などを利用する。ベイジアン解析は、濃度データが多い場合は通常の最小二乗法と同様の結果が、濃度データが少ない場合は母集団パラメータ値の影響を大きく受けた結果が得られる。

以上は個体間変動および個体内変動が絶対誤差に従う場合であり、相対誤差に従う場合は以下の目的関数 OBJ を用いる。

   

または

   

☆絶対誤差と相対誤差について

血中(血漿中)濃度データには必ず誤差が含まれている。誤差を表現するモデルとして絶対誤差と相対誤差がよく用いられる。

Cpを濃度データ、f (t)を動態モデルに基づく予測値、ε を平均0の正規分布に従う誤差としたとき、

絶対誤差モデルは Cp = f(t) +ε 

相対誤差モデルは Cp = f(t) (1+ε) または Cp = f(t) exp(ε) 

で表現される。絶対誤差モデルは濃度データの誤差が濃度にかかわらず一定であることを示し、相対誤差モデルは濃度データの誤差が濃度が大きくなるに従って大きくなることを示す。相対誤差モデルの二つの式は ε の値が小さい場合は近似的に同一の式となる。

なお、Cp = f(t) exp( ε )の両辺に対数をとると、

log(Cp) = log( f(t) ) + ε となり絶対誤差と同じ形式で表現され、対数正規誤差モデルとも言われる。

 これらの誤差モデルは、個々の患者の動態パラメータと母集団(平均)パラメータとの関係でも用いられる。例えばクリアランスの誤差モデル式は上記と同様に、

などで表現される。なおCLCL ηはそれぞれ患者個人のクリアランス、母集団平均のクリアランス、平均0の正規分布に従う誤差を示す。

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