ACTA(アムステルダム)の歯科放射線科について(1993年11月)

 

(概略)オランダ政府の研究者交換プログラム(1993年・平成5年)にて、Academic Center for Dentistry Amsterdam (ACTA)を訪ねる機会を得た。11月下旬の2週間であったが、その歯科放射線科について紹介したい。歯学部はオランダには5校あったが、アムステルダムのUniv. of AmsterdamとFree Universityが1984年にACTAとして一つに統合され、Utrechtは1988年に、Groningenは1991年に閉鎖されたため、現在はACTAとNijmegen の2大学である。ACTAの歯科放射線科は86年よりPaul van der Stelt教授によって主宰され、digital radiographyやimage processingを中心とした研究を行なっている。教室のSanderink先生はdirect digital systemsの評価を、Mileman先生は画像診断のefficacyの解析を、Geraets先生は骨梁のパターン分析などを行っている。大学院は卒後、4ないし5年の博士課程があり、現在3名がexpert systemの開発と画像伝送をテーマに研究している。総じてヨーロッパの歯科放射線科のなかのあって研究活動の活発な教室の一つであると思われた。歯科放射線の教育は2年生からはじまり、まず、講義としてX線診断の基礎事項を15時間(1時間=45分)、3年・4年生に対し56時間の診断学と撮影法、防護を中心とした臨床実習、最終学年の5年生に対して講義を20時間行う。なお、5年生にはその2/3を各科の提供する専門コースを700時間余りとることができ、自主的な診療ないし研究活動ができる。外来は、口腔外科の主部門がAmsterdamと Freeの両大学医学部病院にあるため、口内法とパノラマが中心である。設備としては口内法装置が3台(+学生用4台)、パノラマ装置が3台、セファロ1式、Orbix 1台、Scanora 1台である。X線写真の読影は特別な場合を除いて行われておらず、また中央管理もなされていない。なおStelt教授が中心となって行われているSymposium on Digital Imaging in Dental Radiologyは来年で3回目を迎え、アムステルダム郊外のホテルで10月14、15日に前回(Dentomaxillofac. Radiol. 21(4), 1992参照)と同様の規模で開催されるとのことである。

 

日本歯科放射線学会第165回関東地方会(93年12月、松戸)講演原稿

私はオランダ政府が行なっている研究者交換プログラムにより、2週間という短期間ではありましたが、アムステルダムのACTAを訪ねる機会を得ましたので、この間に得られたオランダにおける歯科放射線の事情について、この場でご紹介いたします。

このACTAですが、オランダの言葉ではAcademisch Centrum Tandheelkunde Amsterdam といいますのでACTA と略します。英語ではAcademic Centre for Dentistry Amsterdam といっています。ついでながら、アムステルダム大学の医学部病院はAcademisch Medisch Centrum, Amsterdam  といいます。ACTAのパンフレットなどで大学を内外の人に積極的にアッピールしております。私の滞在中にも、歯学部を希望する高校生に病院見学をさせたり、研究室に招いたりしておりました。ACTAはアムステルダムの中央駅から、市電で約30分の郊外にあります。オランダには13の大学があり、殆んど国立で、このうち、歯学部をもつのは以前は5校、アムステルダムにUniv. of Amsterdam, とVrij(Free) Universityの2校があり、その他にUtrecht,ここは日本でもよく知られているvan Akenがいたところですが、それとドイツ国境に近い北の Groningen, 西のNijmegen の大学でした。医学部はこれらの大学とその他にはRotterdamとLeidenにあります。しかし、オランダも歯科医師の過剰供給の時代となり、アムステルダムの2校は1984年にACTAとして一つに統合され、Utrechtは1988年に、Groningenは1991年に閉鎖されました。その結果、ACTAとNijmegenの二校のみとなりました。ところが近年、オランダの人口、1500万人に対し、現在の歯科医師数は6000‐7000人であり、この数を将来的に維持するには、現在の卒業生では不足となることが判明しました。そのため今年から定員をACTAは105人から120人に、Nijmegenは45人から60人に増員しました。さらに近い将来には一校を再開するであろうといわれています。もっぱら、政策上の失敗といわれています。

ACTAですが、これは先ほど申し上げましたように、二つの大学から人が寄って出来上がった寄り合い世帯でして、これが将来の日本の歯学部にとって参考になるかは疑問ですが、彼らはそれぞれの大学から来ており、しかも給料もそこからもらうことになっています。

ACTAの歯科放射線科は86年よりPaul van der Stelt教授によって主宰されおり、彼はdigital radiographyやdigital image processingの領域で多くの論文を書いています。もう一人の教授格がUtrechtから移ったSanderink先生でSens-A-Rayなどのdirect digital systemの臨床的な価値についての評価を行なっており、KarolinskaのWelander教授とこの点について共同研究を行なっています。この二人は私とほとんど同じ年です。

このほかに閉鎖されたGroningenから移ったMileman先生、かれは画像診断法のefficacyの解析などをやっており、それに少し若いphysicist のGereaets先生、彼は骨梁のパターン分析などを行っています。これらの方がfacultyを構成しています。

大学院は卒後、4ないし5年のPh. D.コースがあり、現在3名がexpert systemの開発と画像伝送をテーマに研究しています。大学院生は自分の研究と同時に診療や学生の指導も行なっており、したがって少ないながらも給料をもらっており、これは合理的であると思いました。大学院を修了すると、日本の助手にあたるような適当な地位が得られるかというと、それは困難で、昨年、修了したMolさんも、アメリカのEastman Dental Centerに就職したとのことでした。以下は最近の彼らの発表した主な論文のリストですが、これで研究の概略がわかります。

PUBLICATIONS ( Dept. of Oral Radiology, ACTA, 1992-1993, selected)

Modern radiographic methods in the diagnosis of periodontal disease. (Adv Dent Res, 1993)

Imaging: New versus traditional technological aids. (Int Dent J, 1993)

Computer-assisted interpretation in radiographic diagnosis. (Dent Clinic of North America, 1992 )

A comprison of two registration techniques for dental subtraction radiography. (DMFR, 1993)

Blind chance?  An investigation into the perceived probabilities of phrases used in oral radiology for expressing chance. (DMFR, 1993)

Registration of dental radiographs using projective geometry. (DMFR, 1993)

Factors influencing the likelihood of successful decisions to treat dentin caries from bitewing radiographs. (Community Dent Oral Epidemiol, 1992)

Diagnosing periapical bone lesions on radiographs by means of texture analysis. (Oral Surg Oral Med Oral Pathol, 1992)

Expert systems in dentistry. Past performance-future prospects (J Dent, 1992)

Recognizing invariant geometric structure in dental radiographs (DMFR, 1992)

Cost-effectiveness decision analysis of obtaining periapical radiographs of traumatized maxillary incisors (DMFR, 1992)

Application of computer-aided image interpretation to the diagnosis of periapical bone lesions (DMFR, 1992)

Inference systems for automated image analysis (DMFR, 1992)

Improved diagnosis with digital radiography (Current Option in Dentistry, 1992)

 

彼らは現在、歯科用X線写真の画像処理のためのパッケージを作成中で、近いうちに発売しようとしています。そのプログラムには一般の画像処理のプログラムに含まれている処理のほか、例えば、subtractionのために、X線写真の濃度やgeometricalな不一致を補正するものや、根尖部透過像や隣接面齲蝕の輪郭を抽出するもの、骨梁構造のパターンを分析するものなど、いずれも彼らがすでに発表し、実際に利用しているものをひとつのパッケージにまとめたというものです。私はsubtractionを使っていましたが、非常に使いやすく、しかも早いので、実用的であるように思いました。

教育ですが、日本と同様に小学校は6年間、その前の幼稚園も含めると8年になります。小学校をでると、6年制、5年制、または4年制の中等教育を受けます。大学に進む人は6年制の学校に入りますが、正確な割合はわかりませんが、ごく限られた人のようです。大学は4ないし5年制で、医学部は6年、歯学部は以前は6年でしたが現在は5年になっています。

歯学部での教育は一般教養科目などはありませんので、基礎科目が入学したばかりの一年生から行なわれます。臨床科目も、時間数は少ないものの、その多くが一年生からはじまります。ここは日本と異なるところで、我々の大学でも最近、いわゆるearly exposureの重要性が指摘され、2年生に病院見学などをさせていますが、中途半端なためその効果を疑う意見が多く出されています。またオランダでは1年生にファントム実習を含めた歯科全般の実習を行なうことにより、学生に自分の選んだ歯科という領域を早期に知らしめ、進路の変更を容易にさせているとのことです。今後、我々もこうした教育方法を参考にする必要があると考えられます。

歯科放射線学の教育は2年生からはじまり、まず、日本で言うところのX線診断の基礎事項を講義で15時間(1時間=45分)行ないます。X線の発生、生体との相互作用、X線投影におけるgeometricalなことなどで、講義をきかせていただいた範囲で言えば、我々が時間をかけてやっていることを短時間で済ませているという印象をうけました。出席はもちろんとりませんが、出席する学生は約半分、ときに私語もきかれますが、講義中の質問は活発で、決して一方通行な講義ということではありませんでした。3年・4年生に対し56時間の診断学と撮影法を中心とした臨床実習が行なわれます。原則として8人の学生が半日4時間の実習を14回、行ないます。最終学年の5年生に対して講義を20時間行っています。おもに放射線防護と放射線生物学、口外法とdigital radiographyなどについて講義することのことでした。なお、5年生にはその2/3を各科の提供する専門コースを700時間余りとることができ、自主的な診療ないし研究活動ができるようになっており、この大学のユニークなカリキュラムの一つになっています。放射線科はとくに限定したテーマをつけておらず、一般的な放射線診断学ということになっていました。

学生用のデンタル撮影実習室は4つあり、ここで歯学部や衛生士学校の学生が実習を行ないます。撮影実習はデコスケを用いたファントム実習のあと、患者の撮影、おもに全顎撮影の患者を対象に行ないます。通常はフィルムホルダーを用いませんが、矩形のコリメータを用いて撮影しています。これは先端がフィルムサイズですが、コーンカッティングはさほど多くないとのことでした。学生がセットしたフィルムの位置やX線の投影角度をインストラクターがチェックし、照射するという風景は日本と全く、同じでした。ここの全顎撮影は大臼歯・小臼歯を対象としたときは通常のNo.2のサイズのフィルムを横にし左右で4枚、犬歯・切歯を対象にするときはNo.1のフィルムを縦にして左右で4枚、さらに咬翼法では大臼歯部と小臼歯部について左右で4枚、撮影します。したがって用いるフィルム数は20枚に達します。

スウェーデンでもそうですが、デンタルやパノラマの撮影室は鍵型の入り口ではありますが、ドアーがありません。漏洩線は無視できるということだそうです。車椅子の患者の時などは、いたって便利です。

外来は、口腔外科の主部門がAmsterdamとVrijの医学部大学病院にあるため、口内法とパノラマが中心です。設備としては口内法装置が3台(+学生用4台)、パノラマ装置が3台、セファロ1式、それにこのOrbix 1台、とScanora 1台です。

スウエーデンのイエテボリやカロリンスカに比較すると、多軌道断層装置や透視装置がないところが劣っていますが、彼らの診療内容からすれば、これで充分です。X線写真の読影は特別な場合を除いて行われておらず、また中央管理もなされていません。

direct digital の装置はSens-A-RayやイタリヤのGendex社のVisualixをはじめ、現在市販されている4種類の装置があり、主に研究用に用いられています。Sanderink先生の話ですと現時点では画質という点ではSens-A-Rayが一歩、まさっているとのことでした。カロリンスカのWelander教授もおっしゃっておりましたが、いずれはこうしたシステムがフィルムをreplaceするであろうということでした。実用化するには私はまず画像の質をあげること、画面の大きさをもうすこし大きくすること、口腔内での保持を確実にするために専用のホルダーを作ること、の3点を解決すべきであろうと考えます。

個人モニタリングにはフィルムバッジではなく、ハーショーのTLDを用いていました。このほうが感度が高いためだそうです。線量の測定は以前が外注していたそうですが、現在はACTAの技術者がアムステルダム大学とFree Universityの医学部の分も含めて、すべて測定しているとのことでした。

ACTAが行なっているSymposium on Digital Imaging in Dental Radiologyは来年(1994年)で3回目を迎え、アムステルダム郊外で10月14、15日に前回と同様の規模で開催されるとのことです。このシンポジウムはvan der Stelt教授を中心としたACTAのスタッフが企画し実行しており、個人的な色彩の強いもので、我々の国際学会とは直接の関連はありません。昨年のDMFRの4号にその第2回のシンポジウムの特集を組みましたが、これはeditorとしてHirschmanがこのシンポジウムで討論された内容は会員に知らせたほうがいいだろうと判断してそうしたにすぎません。key speakerを数人、指名していますが、歯科放射線の領域でdigital radiologyに興味をもっている人が自由に参加し、討論する場と理解するのが適当と考えます。2年おきに開いており参加者は昨年が150名、主にヨーロッパとアメリカからでした。次回もその程度の参加をみこしており、シンポジウムを効率的にするために次回からはホテルを会場にして行なう予定です。

以上、ACTAの放射線科について、紹介させていただきました。

 

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