研究プロジェクト

1) 唾液分泌障害に対する再生医療の応用

重篤な唾液分泌障害は、様々な口腔病変や摂食嚥下障害による誤嚥性肺炎などの一因となることが知られています。これらの対処法の現状は、人工唾液の使用や残存する腺組織の分泌能を亢進するムスカリン性アセチルコリン受容体アゴニストなどの服用があげられますが、唾液腺組織の損傷が著しく症状が重篤な症例では、より効果的な治療法として幹細胞を用いた再生医療の応用が考えられます。これまで、再生医療で利用される幹細胞のソースとしては、胚性幹(embryonic stem:ES)細胞や臓器固有に存在する組織幹細胞が代表的でしたが、2007年に京都大学の山中博士により樹立された人工多能性幹 (iPS) 細胞は、これらの幹細胞の欠点を補う極めて有用な幹細胞ソースの一つと考えられます。我々の研究室では、iPS細胞や唾液腺組織固有に存在する幹細胞から唾液腺細胞を効率よく誘導する方法を開発し、このことにより唾液分泌障害の新たな治療法としの細胞治療を確立することを目標に研究を行っています。

2) レーザーマイクロダイセクション法の確立とその応用

レーザーマイクロダイセクション法は、組織標本上の特定領域あるいは特定の細胞のみをレーザーで切り取り回収する方法です。回収した細胞から核酸やタンパク質を抽出し、その種類や量を解析することを可能とします。われわれはメンブレンフィルムを用いたダイセクションシステムを開発し、その応用や教育を進めてきました。本システムは癌研究、発生学、糖尿病学、婦人科学、歯科領域では、歯の発生、矯正科学や歯周病学など多方面に応用され、大きな貢献を果たしてきました。

3) 病理形態像の数値化とそれに基づいた診断法の確立に向けて

病理組織学的診断は病理組織標本上の様々な所見に基づいて行われます。しかし、特に前癌病変と呼ばれる明確な浸潤性増殖を示さない病変に対しては、癌か否かの区別に最も有力な「浸潤像」以外の所見に基づいて診断を行う必要が生じてしまいます。その様な病変に対して定量的な評価が可能になれば、より確実な診断とそれに基づいた治療のスタンダード化ができるようになります。われわれはイメージングサイトメトリーを口腔粘膜前癌病変の診断に応用することにより、数値情報による客観的な診断が可能であることを示しました。

4) 癌化及び癌の浸潤・転移に関わる新規マーカー候補の探索

本プロジェクトでは、レーザーマイクロダイセクション法を用いて回収した組織切片上の細胞における網羅的タンパク質発現解析を行っています。病理組織学的に形態の異なる口腔扁平上皮癌から癌細胞のみを回収し、質量解析装置(LC/MS/MS)を用いることにより、形態学的な情報や、臨床情報を持ったタンパク質発現データを得ることが可能です。このデータを解析することにより、癌化や浸潤・転移に関わる新規マーカー候補を探索します。遺伝子発現を解析するマイクロアレイと異なり、転写非依存性に機能しているタンパク質が発見される事もあり、近年、新しい解析手法として注目されています。

5) 癌の骨転移抑制法の開発に関する研究

乳癌は骨転移を来しやすい悪性腫瘍の1つです。私たちは、臨床サンプルを用いて乳癌細胞の骨転移メカニズムの解析とその抑制法に対する研究を行っています。

  1. 乳癌組織からの癌幹細胞 (Cancer stem cell) の単離と骨転移に対する性質の解析
  2. 上皮—間葉転換 (Epithelial Mesenchymal Transition: EMT)の骨転移に対する作用解析
  3. 破骨細胞誘導因子RANK, RANKL, OPGをターゲットとした乳癌細胞に対する作用解析

6) 関節軟骨再生に対する作用解析

関節軟骨は加齢や外傷によって傷害されると再生しにくい組織です。関節表層を覆う表層細胞は関節軟骨のバリアとして重要な役割を担っています。私たちはマウス関節軟骨から関節表層細胞と軟骨細胞の単離培養に成功しました。これらの培養細胞を用いて細胞内シグナル伝達経路の解析や、ノックアウトマウスの組織解析を中心に関節表層細胞の性質解析を行っています。

7) 亜鉛シグナルの生理機能と疾患における役割の解明

私達は口腔医学の観点から全身の健康と病気に関する研究も行っており、その一つが亜鉛シグナルの研究です。キーワードは亜鉛トランスポーター・亜鉛シグナル・病気です。

1:亜鉛トランスポーター

亜鉛は生命活動に必要な元素で、その欠乏は骨密度低下や免疫力低下などを伴う亜鉛欠乏症をもたらします。亜鉛の代謝異常は不摂生な食事や老化によっても引き起こされ、亜鉛欠乏症は現代病とも言われています。亜鉛を運ぶ輸送体が亜鉛トランスポーターで、ZIPファミリーとZnTファミリーが存在します。

2:亜鉛シグナルとは

亜鉛トランスポーターが輸送する亜鉛は様々な細胞機能の調節に関わっています。亜鉛トランスポーターが輸送する亜鉛は特異的な情報の運び屋として機能しており、この亜鉛の働きは亜鉛シグナルと呼ばれています。

3:亜鉛シグナルの異常がもたらす病気

亜鉛シグナルに異常が生じると健康が維持できないことが判ってきました。例えばZIP4の機能破綻は腸性肢端性皮膚炎に、ZIP8は変形型関節炎に、ZIP13は歯・骨・皮膚の疾患に、ZnT2は乳腺の働きに、ZnT8は2型糖尿病に関係していることが明らかになっています。すなわち、亜鉛シグナルが病気に深く関わることが判明し、亜鉛トランスポーターは薬剤開発の観点からも注目されています。

研究内容:

以下の観点から亜鉛シグナルの健康と病気への関わりを分子レベルで解明します。

  1. 亜鉛シグナルはなぜ特異的に作用するのか?:メカニズムの解明
  2. 亜鉛シグナルを制御することはできるのか?:薬剤開発
  3. 亜鉛シグナルが関わる組織の発生と再生制御:幹細胞の研究

参考文献:

プレスリリース:

科学新聞記事

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