研究内容


 研究プロジェクト


1.咀嚼のパター ン形成機構
咀嚼のパターンを作る神経回路が脳幹のどこにあって、どのような神経回路かについて、大脳除去動物の動脈灌流標 本に光遺伝学やカルシウムイメージングの手法を適用して調べています。咀嚼のパターン形成回路の性質を調べるた めに、脳幹の刺激や局所破壊を行うと、脳幹に存在する呼吸や循環中枢が影響を受けて動物の全身状態が悪化する可 能性があります。動脈灌流標本は、心臓移植時の体外循環法を応用し、下行大動脈から酸素化した人工脳脊髄液を注 入します。これにより呼吸や循環中枢の状態に影響されずに標本に酸素供給ができるため、咀嚼のパターン形成回路 の性質の解明が進むと期待されます。

2.嚥下の中枢制御機構
食べ物を嚥下するためには、舌、咽頭、喉頭の筋が順序よく協調して運動する必要があります。この協調がうまく行 かないと、食べ物が食道に入らずに気道に入り、誤嚥性肺炎を起こすリスクが高まります。私たちは、嚥下をコント ロールする神経回路の仕組みや嚥下を改善すると言われている薬の影響を、大脳除去ラット動脈灌流標本を用いて解 析しています。

3.大脳皮質による口腔顎顔面機能の制御メカニズム
大脳皮質は、咀嚼の開始と維持に関与するとともに顎舌運動の協調や円滑な嚥下の誘発に重要な働きをすると考えら れています。大脳皮質のこれらの機能に対する役割を調べるために、動物が実際にエサを咀嚼している時の大脳皮質 ニューロンの活動を、in vivoカルシウムイメージング技術を用いて解析しています。

4.セロトニン、ヒスタミン、オレキシンの顎口腔の感覚・運動機能に対する影響
食物を咀嚼するとき、食物の大きさや硬さなどによって咀嚼筋の活動の強さや咀嚼リズムはさまざまに変化します。 つまり、顎口腔領域からの感覚情報が脳、特に下部脳幹に存在する咀嚼のパターンを形成する神経回路の活動に影響 し、食物の性状に適した咀嚼筋活動を調節していると考えられています。この調節には、セロトニンやヒスタミン、 オレキシンといった生理活性物質が重要な役割を担っていると考えられていますが、その詳細は不明です。そこで当 研究室では、最新の光遺伝学や薬理遺伝学的手法を使って、特定のニューロンの活動を人為的にコントロールし、こ れらの生理活性物質が顎口腔の感覚・運動機能にどのような影響を及ぼしているのかを研究しています。

5.咀嚼運動と自律神経系のクロストークの解明
三叉神経運動核の上方の狭い領域には、咀嚼運動を遂行する神経回路と自律神経系の入力を受けて摂食行動を抑制す る神経回路が存在します。この2つの神経回路機能のクロストークにより咀嚼運動がon-offされている可能性 があります。また、自律神経中枢の発生に関与する転写因子Phox2bの陽性ニューロンは、これらの領域にまた がり多数存在します。そこで、脳スライス標本、大脳除去ラット動脈灌流標本および自由行動ラットのPhox2b 陽性ニューロンに光操作技術を適用してその性質を調べ、咀嚼運動と自律神経系のクロストークの解明を目指してい ます。

6.吸啜から咀嚼への転換機構
摂食行動は、生後吸啜運動から咀嚼運動へと大きく変化します。この時脳は、末梢の感覚受容器、咀嚼筋、骨格等の 口腔諸器官の生後発達と密接に関連して変化していくと考えられます。脳幹スライス標本を使って、種々のニューロ ンの性質が発育に伴ってどのように変化していくかを検索しています。