前立腺癌密封小線源永久挿入治療(ブラキセラピー)のご案内

(Key Words: 密封小線源療法 ブラキセラピ− seed implants Brachytherapy)

当院では、前立腺ガンに対する放射性同位元素(ヨウ素125)を使用した密封小線源永久挿入治療(ブラキセラピー)を行っています。この治療は、ヨウ素125を放出するチタニウムカプセル(シードと呼びます)を直接前立腺に挿入する放射線治療であり、限局性前立腺ガン(局所にとどまる前立腺ガン)の新しい治療法として非常に注目されています。その理由として、従来の開腹手術による治療法と比較して低侵襲(体への負担が少ない)な治療法にも関わらず、優れた治療効果があることが欧米の多くの報告から実証されているからです。また、治療後の生活の質を左右する合併症(尿失禁、勃起障害など)の発生率も低いため、今後日本でも前立腺ガン治療の主流となることが予想されています。

 日本では放射線に関する厳しい法律規制が存在したことから、治療導入が熱望されていたものの、ようやく2003年より施行可能となりました。しかし米国では1980年代より行われており、既に10年〜15年に渡る良好な長期的な治療成績が数多く公表されてきました。米国では1990年代よりこの治療の急速な普及が見られ、限局性前立腺ガンの標準的な根治治療として確立しています。当科では日本への治療導入を見込み、米国の提携病院にて、日本での治療認可以前の2002年より数多くの症例を米国で経験してきました。

  
  
 Advisor staff 
 Dr John Lederer
 Radiation oncologist  
 Associate professor, University of Hawaii
当科の提携施設:The Queen’s Medical Center  Honolulu, Hawaii  

治療の対象は転移のない前立腺ガンですが、ガンの状態や併存する疾患の状態によっては施行ができないこともあります。当院では、専門外来を設置しておりますので、受診希望の方は、紹介状、病理のスライドをご持参の上、まず医師の診察をお受けください。専門外来のご予約は下記の電話番号までお願いします。

昭和大学病院 泌尿器科外来 03-3784-8558 月曜日から金曜日 午後2時から午後5時まで。

電話での対応に少々お時間をいただく場合がございますのでなにとぞご容赦のほどよろしくお願い申し上げます。


以下に大まかな治療の概略を記載いたしましたので御参照ください。

1:密封小線源永久挿入治療(ブラキセラピー)とは?

2:どんな前立腺ガンが治療の対象になるの?

3:密封小線源永久挿入治療(ブラキセラピー)の良い面は?

4;密封小線源永久挿入治療(ブラキセラピ)の悪い面は?

5;治療成績は?

6;実際の治療の流れは?


【1:密封小線源永久挿入治療(ブラキセラピー)とは?

密封小線源永久挿入治療とは、生体に無害な小さなチタニウムカプセル(シード)に封入されたヨウ素125という放射性物質を複数個(数は約50から100個、前立腺の体積によって異なります)前立腺内に永久的に留置することで、前立腺癌を根治する治療法です。挿入されたシードから放射線はゆっくりと前立腺内で放出され、病巣の細胞を死滅させます。

前立腺ガン密封小線源永久挿入治療は一般にはブラキセラピー、または単に小線源治療などと略称されることが多いようです。学会レベルでも定められた正式な呼称はなく、治療導入後も呼び方が変わっています。“ブラキセラピー”という呼び方は“小線源治療”という意味で、小線源治療にも様々な種類がありますから厳密には永久挿入の治療を指す言葉ではありませんが、日本名が長く煩雑なため、本文でも以後、“ブラキセラピー”という言葉を使用します。この治療は前述しましたが、日本では2003年より新規に施行許可となった新しい前立腺ガンに対する治療法です。しかし欧米では同様の手法での治療経験が20年近くにもなり、限局性前立腺ガン(局所にとどまる前立腺ガン)に対する標準的な治療手技として年間約6万件が行われています。また今後、前立腺ガンの根治治療の中では最多件数を占めるようになると予測されています。日本でも数年前から治療導入が切望されていましたが、医療法、放射線障害防止法等の厳しい放射線に対する法律規制により施行できず、導入が遅れた経緯があります。

ブラキセラピーとは、“近い”という意味と“治療”という意味が合わさった言葉であり、その名のとおり、前立腺という治療の対象臓器自体に放射線を発する物質を埋め込むことで、より近くから効果的に放射線を使用したいという考えに基づいています(通常の放射線治療―外照射は、体の外から照射します)。この考え方自体は1900年代初頭よりあり、違った放射性核種を使用して行われてきた長い歴史があります。現在用いられているヨウ素125という放射性同位元素は、ゆっくりと低い放射線を長い期間かけて放出するという特性があります(主に効果を発揮するのは約60日間で、効果が全くなくなるには約300日を要します)。またその放射線の作用は、シードの周囲のわずかな範囲にのみ効果を発揮しますので、前立腺の周囲にある放射線感受性の高い臓器(直腸、膀胱、尿道)への影響を抑えることができます。さらに、最新のコンピュータ技術を用いており、緻密に放射線の分布を計算して行われます。

しかし、この治療はいわゆる転移のある前立腺ガンの方は対象になりません。また適応となる限局性前立腺ガンの方にとっては、体の負担が少なく、治療成績が良好なため非常に魅力のある治療法ではありますが、合併症や副作用が全くないわけではありません。加えて放射性物質を使用する治療の性質上、手術後に御自身にも御協力頂かなくてはならない面もあります。

(図1)日本で現在使用されているヨウ素125シード。欧米ではパラジウム103というシードも使用されることがありますが、長期的な成績に両者の差はないとされています。線源は横約5ミリ×縦約1ミリの銀色の円筒形のものです。

(図2)実物のシード。

 

【2: どんな前立腺ガンが治療の対象になるの?】

限局性前立腺ガン(局所にとどまる前立腺ガン;前立腺周囲へのガンの浸潤、リンパ節転移や遠隔転移のない状態)の方が適応になります。したがって、治療前に@CTスキャン、MRI、骨シンチグラフィーなどの画像診断でガンの浸潤、転移の有無を評価しなければなりません。また、A血清PSA(前立腺特異抗原)値、B前立腺組織生検での病理組織診断結果(グリソンスコア)が重要な治療適応の判断材料となります。米国での研究により、@〜Bの結果から、ガンの浸潤、転移の存在する確率がノモグラムという表を参照することで予測可能であり、@〜Bの結果を総合して、3段階のリスク分類を行い、ブラキセラピーだけを行うか、中等度の線量の放射線外照射治療を併用して治療するかを判断します(表1、2)。

基本的には、低リスク群に分類される方にはブラキセラピーの単独治療、中〜高リスク群に分類される方には、ブラキセラピーに加えて放射線外照射治療(40〜45グレイ)を骨盤部または前立腺部へ追加します。手術適応に関して、ABS(米国小線源学会)では、高リスク群の方に対しては放射線外照射治療の併用を推奨していますが、その他に細かな推奨事項はなく、施設で独自に治療成績や患者さまの希望を考慮して治療の組み立ては決定されています。したがって、中〜高リスク群の方には、治療前後にホルモン療法を組み合わせる場合もあります。当院での治療適応基準ならびに治療方法を、表1,2に示します。

また、以下に記載したような方は治療の性質から治療適応とならないか、慎重な判断の上での治療施行が必要です。この治療適応の部分は非常に重要です。解らない点は、担当医師とよく相談するようにしてください。

1;過去に前立腺肥大症の内視鏡手術(経尿道的前立腺切除術)を受けた方

  この手術による前立腺の組織欠損が大きい場合にはブラキセラピーの適応にはなりません。しかし、組織欠損が少ない場合は治療可能で、これは超音波検査で判断できます。内視鏡手術後の方が小線源治療を受けた場合には、一部の合併症の発生率が増加する可能性が示唆されており、担当医師とよく相談することが必要です。

2;前立腺体積が約40c.c.を超える方

前立腺体積が、約40c.c.以上の方は前立腺体積を小さくするために、治療に先立ち約3ヶ月間のホルモン療法(内服、および一ヶ月毎の注射―外来通院で行います)を受けて頂きます。これは、放射線障害防止法で定められた規制で、一人の方に挿入できるシード数に制限があるからです。ホルモン療法を術前に行うことで、約30%の前立腺体積の縮小が期待できます。しかし、前立腺肥大が著明な場合、十分な前立腺体積の縮小が認めらない場合もあります。

3;下肢の挙上、開脚が不可能、あるいは不十分にしかできない方

 手術台上で砕石位(お産のときのような体位)が十分に取れない方は、シードを適切に挿入することができないため治療できません。


4;大きな前立腺結石の存在や、解剖学的な恥骨弓角度の問題が判明した場合


 これらに該当する方も、手術の性質上、適切にシードを留置することが困難と予想され、手術適応となりません。これらは超音波検査、またはCTスキャンで評価可能します。

5;出血傾向を招く薬剤を常用しており、その服用を手術前後の一定期間中止することのできない方
  薬剤の該当品目については担当医師に相談してください。また、服用中止の可否は、通常、処方医師の判断によって決定されます。

6;前立腺癌以外の病気があり、麻酔や手術施行に危険のある患者さま
重度の糖尿病、心疾患、呼吸器疾患などをお持ちの方が該当します。

7;その他、担当医が適応外と判断した場合



表1;前立腺ガンのリスク分類。表のリスク分類に基づいて、密封小線源永久挿入治療単独治療を行うか、放射線外照射治療を追加するかを決定します。


表2;リスク別の治療方法。前立腺体積や、リスク群によっては手術前後にホルモン療法を併用する場合もあります。

【3;密封小線源永久挿入治療(ブラキセラピー)の良い面は?

1:放射線性副作用の発生頻度が低い

 体外から放射線を照射する外照射治療では、前立腺ガンの場合、ガン病巣の前立腺内の局在が画像診断ではっきりしないことが多いため、前立腺全体に充分な量の放射線を照射することが必要です。従って、前立腺に隣接する放射線感受性の高い臓器(直腸、膀胱、尿道)、また皮膚に放射線性の障害が起こることがあります。また、障害の発生頻度は放射線量に比例して増加すると言われています。ブラキセラピーでは、放射線を発するシードは直接前立腺内に挿入され、シードから放出される放射線の放射距離が短いため、隣接する放射線感受性の高い臓器への影響を少なくすることができます。

2:より確実な照射が可能

 外照射治療の場合には、最初に照射野を決定すると、そこに照射を連日反復して行いますが、前立腺は腸管運動や膀胱にある尿量の影響で毎日1〜2cmは簡単に動してしまいます。そのため、照射部位が毎日微妙にずれていく可能性があります。また現在の外照射法は隣接する臓器への放射線の影響を抑制するために照射野をできるだけ小さく限定していますが、照射野を絞るほど前立腺からはずれた部位に照射する可能性も高くなります。体にマーカを付けて、追跡照射することも時に行われますが、一般的には行われません。 ブラキセラピーは、直接前立腺内に線源を挿入するため、前立腺の動き関係なく照射を行う事ができます。また、ガンが前立腺被膜(前立腺の外側を覆う組織)からはみ出していることが予測される状態でも、被膜外5ミリ程度の範囲まで高線量が分布するように治療計画が行われますので、開腹手術では対応できない被膜外浸潤ガンにも治療効果があるとされています。

3;体への負担が少なく、早期の社会復帰が可能

通常、体への負担は少なく早期の社会復帰が望めます。海外では法規制、麻酔方法、保険システムの違いから、外来での日帰り手術も行われています。日本では個室入院が放射線障害防止法により義務付けられています(後述)が、入院期間は数日です。ちなみに開腹手術による根治術(前立腺全摘除術)では通常約1ヶ月の入院が必要で、また外照射単独治療では入院は必要ありませんが、7〜9週間ほぼ連日の外来通院が必要になります。治療料金に関しても個人差(使用するシードの個数などが異なるため)がありますが、開腹手術、外照射と比較して割安となります。

4;合併症の発生頻度が低い

 前立腺ガン治療後の日常生活にかかわる術後合併症として、尿失禁及び勃起能喪失の問題があります。ブラキセラピー単独施行の場合、前立腺全摘除術と比較して上記合併症の発生はかなり低率(10%程度)とされています。発生率は、放射線を当てる量に比例して増加するとされており、放射線外照射治療を併施した場合には、合併症の発生率は多少上昇すると報告されています。しかし、直接的に勃起や失禁を司る神経、筋肉を外科的に損傷あるいは切断するものではありませんから、依然、禁制並びに性機能が保たれる可能性は高いといえます。


;密封小線源永久挿入治療(ブラキセラピー)の悪い面は?

1;放射性物質を体内に挿入することによる規制(入院中)

 放射線障害防止法の法規制に準じて、一時的放射線管理区域指定された個室への入院が必要です。一時的管理区域指定とは、特別な仕様の部屋ではなく、通常の一般個室部屋を一時的に放射線管理区域指定するものです。管理区域指定は手術翌朝には解除されます。管理区域指定されている間は許可を得た職員以外入室できません。これは、手術後シードが尿中に排泄されることがありますが、これは手術後24時間以内に排泄されることがほとんどであるという報告に基づいています。排出されたシードは、回収が法的に義務付けられていますので、入院していれば、特殊な放射線測定装置を使用してシードを検出できるため紛失しにくくなります。

 入院中の注意事項に関しては、医師、病棟看護婦から繰り返しご説明致します。基本的に法的規制に準拠するよう簡単な注意事項を守って頂く必要があるだけで、過剰に神経質になることはありません。

2;放射性物質の体内挿入による規制(退院後)

 退院後も放射性物質が体内で効果を発揮している間は、いくつかの日常生活における制限があります。手術後約2ヶ月間(2ヶ月間でシードの力は半分になります)は、公衆、特に乳幼児、妊婦さんからはなるべく離れる(目安として約2メートル程度と考えて下さい)ようにしていただきます。また性交渉も、放射線を放出しているシードが精液中に排出される可能性も含め、2ヶ月間は避けるようにして下さい(その後もコンドームの使用をお勧めします)。ただし、患者さまの尿、便や精液には放射能は含まれませんので排尿排便、入浴は術前と同じで構いません。ブラキセラピーを受けた方からの放射能は主におなかの前側から放出されますが、その力は弱く、長時間他人と直に接するようなことがなければ障害は起こりませんので、過度に神経質になる必要はありませんが。しかし、法律で定められたルールは守る必要があり、注意が必要です。

3;術後の合併症

 前述したように、体への負担が少ない治療ですが、合併症(合併症とは、あらかじめ発生することが予測できる、治療を受けた方に不利益な状態、状況のことです)が全く発生しないわけではありません。前立腺自体は、シード挿入に使用する針の穿刺の影響で手術後は一時的に体積が増大し、時には2倍になることもあります。そのため、前立腺の中を通る尿道を圧迫し、治療前より排尿が困難になったりがあったり、前立腺体積の大きい方や治療前から排尿状態が方は、手術後一時的に尿閉(自分で尿が排出できなくなる)になることがあります。しかし、幸い刺入による前立腺体積の増大は通常一時的なもので、手術から1〜3カ月経過後には、ほぼ元の前立腺体積に戻ります。 また、手術後1〜2カ月の間、頻尿、尿意切迫感、尿勢低下などを経験するかもしれませんが、これらの症状も通常は前立腺の術後の一時的な腫大の改善と、挿入されたシードの放射線量の低下とともに軽減していきます。また、稀ではありますが、時に術後長期経過後に尿道狭窄などの合併症が生じ、処置が必要となることもあります。
直腸に関する症状としては頻便や軟便が一般的で、通常手術後2〜3週間で軽快します。時に直腸出血を経験する事もあります。これらは無処置で自然軽快することが多いですが、時に投薬などの処置を必要とします。発生率は非常に低いものの、直腸障害がひどい場合には、直腸潰瘍や膿瘍を形成することがあります。勃起障害も生じることがあります。これは、陰茎の付け根の部分にかかる放射線の量が多いと発生するなどの報告があります。しかし、薬剤内服による勃起能の回復は高率と報告されています。
 
 術後合併症と、発生しやすくなるリスク因子に関しては表3を参照してください。

4;手術後の血清PSA値の経過に関する不安

 治療後、血清PSA値は急激に正常範囲内に低下するのではなく、ゆっくりと低下していきます(時には1〜2年かかります)。これは、放射線の癌の根絶作用はゆっくりと進行するからです。術後、急激な血清PSA値の低下がなく、不安に感じることがあるかもしれませんが、経過をみることが必要です。

 血清PSA値が3回以上(3カ月毎に血清PSA値を測定した場合です)の測定期間に渡って連続上昇した場合には、腫瘍の再発を考えて、追加治療を考慮することになります。また、血清PSA値測定による経過観察期間中に、一時的に血清PSA値が上昇することがあります。この現象はバウンス現象と呼ばれており、我々の検討では約40%の方にこの現象を観察しています。血清PSA値が再上昇したことで不安を感じることもあると思いますが、決してまれな現象ではなく、またガンの再発を意味するものではありません。

5; シードに関して

 治療に使用するシードは既製品でなく、手術日に合わせてオーダーメイドされ、輸入されてきます。シードを注文してから、輸入されてくるまでに3週間程度かかりますが、一旦製造されると電池のように自然に減衰を始め、力がだんだん弱くなってきます。シードの力はあらかじめ予定された治療日に合わせて設定されています。体調を崩し、予定日に万が一手術ができなくなってしまった場合、1週間程度は手術を延期できますが、それ以降は予定した線量の放射線を前立腺にかけることは難しくなります。患者様の種々の事情により手術ができなくなった場合にはシードは再使用ができませんので、自費で負担していただくことになります。手術日にあわせて体調を崩さないようにしておくことも大切です。

表3;主な手術後の合併症と、その発生に関するリスク因子


5;治療成績は?

 米国では、一部の施設から15年間の治療成績が既に公表されています。治療成績は、手術後一定期間後の患者様の生存、非生存で示されるのではなく、血清PSA値の手術後の推移を追跡調査し、血清PSA値が連続的に上昇した方を再発(生化学的再発)として、その再発率を評価したものです。再発についての定義に関しては、一般的には、1996年に提唱されたASTRO(米国放射線腫瘍学会)の定義が使用されています(3回以上の血清PSA値の測定結果に連続上昇が認められた場合を再発例と定義します)。

 以下に米国多施設での、低リスク群の方に対するブラキセラピー単独治療の長期治療成績(表4)と、我々が発表している日本人に関する長期治療成績(図3)を示しますが、前立腺全摘除術と同等の良好な治療成績が示されています。図3に関しては、数例の例外を除き、低リスク群の方にはブラキセラピーの単独治療、中〜高リスク群の方には放射線外照射45グレイとブラキセラピーの併用治療を行ったものです。

表4;米国多施設での低リスク群の方に対するブラキセラピー単独治療での治療成績。生化学的再発の定義は各施設によって微妙に異なります。

図3;日本人に対する治療成績。数例を除き、低リスク群の方にはブラキセラピー単独治療、中〜高リスク群の方は放射線外照射45グレイとブラキセラピーの併用治療を行ったものです。


【6;実際の治療の流れは?】

1; 初診から入院まで

 当院に通院されている方は、検査データが当院に保存されておりますので、それらを基に治療方針について御相談することになります。 
 他施設からの紹介受診または自己来院の方は、他院での経過に関するデータ(血清PSA値、グリソンスコア、これまでの検査、治療内容など)を持参して頂きます。また、前立腺組織生検の病理組織プレパラートを借りてきて頂くこともあります。これは病理医によってグリソンスコアの診断にばらつきがでることがあるからで、当院の専門病理医による再評価を行いたいからです。画像検査(CTスキャン、MRI、骨シンチグラムなど)についてもできるだけ当院で再評価することをお勧めしますが、諸事情により施行できない場合には、先方の病院からフィルムを借りてきて頂くことがあります。全ての資料は一時的にお預かりするだけで、必要がなくなり次第、必ず返却致します。 これらのデータを基に、まず適応となり得る全ての治療法について担当医から再度御説明致します。医師との間で合意が得られ、ブラキセラピーを施行することになった場合、経静脈性尿路造影やCT検査、経直腸的前立腺超音波検査などを適宜行います。これは、治療計画を立案(ボリュームスタディーといいます;後述)する前に、前立腺体積、恥骨弓の位置、前立腺結石の有無、経尿道的手術の手術痕などの評価が必要で、この段階で治療適応から外れることがあるからです。これらの検査に問題がなかった場合、治療計画検査(ボリュームスタディ)日、手術日の決定、入院予約をします。入院日に関しては病院の入院予約係が調整し、お電話でご連絡致します。 
 手術日が決まると、手術予定日の3〜4週間前に、外来検査として、治療計画立案のための超音波検査―ボリュームスタディーを行います。この検査は経直腸的前立腺超音波器を使用した検査(肛門から親指ほどの太さの超音波探触子が挿入されます)で、前立腺の画像データを小線源治療専用コンピュータソフトに入力し、医師並びに放射線技師が、挿入するシードの個数、配置を決定する大変重要な検査です(図4)。検査時に尿道に含気したゼリーを注入し、画像上尿道を同定しやすくする必要があります。また、直腸に便の貯留があると良好な画像を得ることができませんので、検査前日、当日にあらかじめ処方された内服薬、浣腸薬を必ず使用して下さい。

 ボリュームスタディーを手術の数週間前に行うのは、患者さまに挿入されるシードは当院の注文後製作され、海外から輸入されてくるからです。一度注文した線源は、手術日に合わせ細かく線量計算されて当院へ送られてきます。シードは減衰(効力が電池の用に放置することで自然に弱くなる)しますので、手術日の変更は原則的にできません。手術日に合わせ体調を整えるようにしてください。
 その他、一般術前検査(心電図、胸部レントゲン撮影、一般採血、感染症採血など)を行っていただきます。また、治療に関する各種承諾書、排尿、排便、勃起などに関する質問表の記入も適宜行って頂きます。手術承諾書に関しては、入院時に担当医から再度手術説明を致しますのでその時に記入して頂きます。

なお、放射線外照射併用で治療を行う事になった場合には、合計45グレイの外照射を一日1.8グレイづつ外来通院(中央棟地下一階放射線治療部)で受けて頂きます。原則週5日間連日で受けていただくことになります。一回の治療時間は10分ほどです。放射線外照射は、基本的には小線源治療前に行いますが、手術予定や患者さまのご希望によっては小線源治療後に行うこともあります。外照射を小線源治療の前後どちらに行うかによって、治療成績や合併症の出現頻度に差はありません。

図4; ボリュームスタディーの様子と前立腺画像を基に、専用コンピュータを使用した治療計画の一例。泌尿器科医、放射線腫瘍医、放射線技師がともに意見交換しながら綿密に計画を立案します。

2; 入院

 個室入院(法律で定められています)となります。手術前に、当院では手術中の麻酔を麻酔科の専門医が行いますので、術前診察を受けていただきます。入院時の持参品に関しては、入院予約時に外来看護婦から御説明致します。

3; 手術前日、手術日

 手術前日は、夜に浣腸と就寝前の緩下剤の内服、手術当日には再度浣腸をして頂きます。また前日夜半過ぎからは絶飲食となります。常用している内服薬の一部は当日朝も服用していただくことがあります。また、会陰部の切毛を行います。

 手術は放射線治療部内の専用治療室で行います。腰椎麻酔(麻酔方法は患者さまの状態によって変更になることがあります)で、砕石位(お産のときのような体位)で手術台に横たわり、尿道からカテーテルを挿入(カテーテルは翌朝まで挿入したままです)し、肛門から経直腸的超音波装置を挿入して手術開始です。ボリュームスタディーでの治療計画通りにシードを経会陰的(股の間の皮膚から)に挿入します。シードは前立腺体積によりますが、50〜100個挿入します。手術時間は40分〜2時間程度です(図5,6)。

図5;手術時の線源挿入の様子。様々な機器を使用して計画通りに挿入します。



図6;シード挿入後のレントゲン写真。前立腺内に多数のシードが整然と挿入されています。

4;治療後

治療後は麻酔による影響(頭痛など)を排除するために、翌朝までベッド上に安静にしていただきます。食事は翌日より再開できます。また、一時的放射線管理区域指定も解除され、医師による回診後、室外への外出が可能になります。回診時には手術時に挿入された尿道カテーテルも抜去します。その後はご自分でトイレに排尿して頂きますが、前立腺内に挿入したシードが尿中排出されることがありますので、尿は、ネット状の排尿器具(ストーンスクリーン)で濾していただきます。ストーンスクリーンは院内売店で販売しておりますので購入してください。万一、尿中にシードが排出された場合は、紛失することのないよう、速やかに看護師をお呼び下さい。病院側で回収処理いたします。排出されたシードには手で直接触れないようにしてください。手術翌日にはシードの位置確認のためのレントゲン、CT検査も行われます。

5;退院後
 退院後は放射性物質が体内で効果を発揮している間、いくつかの日常生活における制限があります。手術後約2ヶ月間は、公衆、特に乳幼児、妊婦さんからなるべく離れる(目安として2メートル程度と考えて下さい)ようにしていただきます。また、性交渉も、シードが精液中に排出される可能性も含め、2ヶ月間は避けるようにして下さい。ただし、患者さまの尿、便や精液には放射能は含まれませんので、排尿排便、入浴は手術前と同様で結構です。2ヶ月間という日常生活上の制約期間は体内に留置されたシードの効力が半分になるのに59.4日、効力がなくなるのに約1年間かかるというヨウ素125の物理学的特性に基づいています。

 体内のシードから体の外部へと放出される放射線は弱く、過度に神経質になる必要
はありませんが、周囲の方への被爆を強く懸念される方には、鉛を含有したパンツ型の装具を販売しておりますので御相談下さい。また、治療後にお渡しする“前立腺密封小線源永久挿入治療カード“を常に財布などに入れて携帯するようにしてください。日常生活で頻繁に必要になることはありませんが、他の疾患での病院受診時には、御自分が小線源療法を受けたことを申告して頂く必要がありますし、海外旅行時に空港のセキュリティーレベルによっては、係官が放射線測定器による検査を行うことがあります。このような場合には、携帯している治療カードを提示し、必要であれば当院への問い合わせを依頼してください。 手術約1カ月後には、CTスキャンを再度撮像します。この画像を小線源用コンピュータソフトに入力して、挿入されたシードの位置を確認、治療が計画通り行われたかどうか検証します。この検査は、この治療の大きな特徴で、その後の経過観察に関しての重要なデータとなります。治療後2年間は約3カ月毎の外来通院による経過観察が必要で、その後は問題がなければ半年に一度の通院となります。再診時には、主に直腸診、血清PSA値の測定を行い、必要であれば画像診断をします。ガンの局所再発あるいは遠隔転移が発見された場合、再発の状態や年齢、全身状態などを考慮して追加治療についてご相談することになります。