生殖補助医療で生まれた児の長期予後

 生殖補助医療とは、不妊症のカップルに対して自然な性交によらず、精子と卵子を受精させて妊娠に導く医療技術のことを言います。一般に、取り出した精子と卵子を体外で受精させる「体外受精」と顕微鏡下で卵子に精子を注入する「顕微授精」とがあります。2010年の統計によれば、我が国で出生した児36人に1人は生殖補助医療で出生しているようです。

 しかし生殖補助医療の歴史はさほど長くなく、生殖医療で出生した児の長期予後については十分な検証ができていないのが現状です。世界で初めて体外受精による赤ちゃんが誕生したのは、1978年イギリスでのできごとです。日本では初めて体外受精による赤ちゃんが誕生したのは1983年でした。顕微授精に至っては、1989年にシンガポールで行われたのが世界初で顕微授精による赤ちゃんが誕生しました。日本でも遅れて1992年で顕微授精による赤ちゃんが誕生しました。つまり、体外受精が行われるようになってからまだ40年足らず、顕微授精に至っては30年もたっていたいのが現状です。当然、生殖補助医療で受胎した児の長期的予後、特に成人期の問題はようやく着目されるようになってきている分野で、今まで十分な検討はされてこなかったといえます。

 最近の動物実験によれば、体外受精・胚移植で出生したマウスは、自然妊娠で出生したマウスと比較して、生後の成長パターンが異なるようです。そして興味深いことに、この成長パターンの違いには性別差があり、受精卵を培養するために使用する培養液の種類によってもそれは異なるということが示唆されています。実際、着床前の人工胚の遺伝子発現を調べたヒトを対象とした研究においても、培養液の違いによりその遺伝子発現が異なることが報告されています。前述の動物実験では、体外受精・胚移植で出生したマウスの長期予後も検討しており、この結果によると雄では成獣期に耐糖能異常が起こりやすいことが示唆されていますが、長期予後についてはヒトではまだわからないことが多いのが現状です。

 生殖補助医療の恩恵をうけるカップルは年々増加しており、我が国においてもそれはなくてはならないものとなりつつあると思います。生殖補助医療で出生した児の長期的予後については、これから明らかにしていかなくてはいけない問題であり、DOHaD研究とも結びつく分野です。今後の研究の発展に期待したいところです。

1) Kleijkers SH, et al. Differences in gene expression profiles between human preimplantation embryos cultured in two different IVF culture media. Hum Reprod 2015; 30(10): 2303-2311.

2) Donjacour A, et al. In vitro fertilization affects growth and glucose metabolism in a sex-specific manner in and outbred mouse model. Biol Reprod 2014; 90(4): 80.


2017年11月27日