研究対象:骨を溶かし吸収する「破骨細胞」


私たちの骨の中には「破骨細胞(Osteoclast)」という、骨を溶かし吸収する大きな細胞がいます〔上の写真:中央のニット帽のような形をした細胞で、丸く青紫色に染まった「核」を複数もっています。下の写真:破骨細胞によって骨の表面が溶かされ、円形の穴が空いています。〕。この細胞から塩酸が分泌され、それが骨の主成分であるリン酸カルシウムの一種、ヒドロキシアパタイトを溶解します。溶解した跡にはコラーゲン線維束が露出しますが、それも破骨細胞がタンパク質分解酵素を分泌して分解してしまいます。骨が溶かされたあと、「骨芽細胞(Osteoblast)」という骨を作る細胞が新しい骨で埋めてくれます。このように骨は破骨細胞による古い骨の分解と骨芽細胞による新しい骨の生産がうまく繰り返される「骨のリモデリング(改造)」を通じて、品質が維持されています。
私たちは、この破骨細胞が体の中でどのように生まれてくるのか、そしてどのような仕組みで骨を溶かしているのかを研究しています。
私たちは、この破骨細胞が体の中でどのように生まれてくるのか、そしてどのような仕組みで骨を溶かしているのかを研究しています。
破骨細胞の役割

破骨細胞は古い骨を溶かすことだけでなく、他にも役割を担っています。たとえば、歯が生え変わるときには、乳歯の根っこ(歯根)を分解して乳歯を抜けやすくします。それによって永久歯が生えてきます。この写真はブタの顎の中を観察したときの写真です。顎の骨の中には永久歯が潜んでいるのがわかります。また、その先の乳歯の根っこが破骨細胞によって分解され短くなっているのがわかります。この場合、骨ではなく歯を溶かしているので「破歯細胞」とも呼ばれます。
プロジェクト1:破骨細胞の分化メカニズムの解明

歯周病では、歯周組織の炎症が破骨細胞の数を増加させ、歯槽骨破壊を誘発することが問題となっています。私たちは破骨細胞分化メカニズムを解明することによって、炎症性骨破壊の新たな側面を解明します。
プロジェクト2:破骨細胞の骨吸収装置の解明

破骨細胞はプロトンポンプとクロライドチャネルを利用して、骨表面に酸を分泌します。しかし、それがどのようなメカニズムで遂行されているのか詳細は不明です。私たちは、プロトンポンプの局在に焦点を絞り骨吸収装置の仕組みを解明します。
プロジェクト3:骨吸収抑制剤の物理化学的・薬理学的・生物学的作用の解明

破骨細胞は古い骨を吸収し、骨芽細胞に新しい骨の造成を促す大切な役割を担っています。しかし、骨粗鬆症や癌の骨転移、歯周病などでは破骨細胞が増えすぎて、必要以上に骨を吸収してしまします。この破骨細胞の増加や骨吸収作用を抑える薬が骨吸収抑制剤です。骨吸収抑制剤には様々な種類があり、作用機序もそれぞれ異なります。私たちは新しい骨吸収抑制剤の開発を視野に入れて既存の薬剤の作用を遺伝子・細胞・生体レベルで解析します。