DOHaDとは

DOHaDとは

 DOHaD とはDevelopmental Origins of Health and Diseaseの略であり、「将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定される」という概念です。


 1980年代から1990年代初頭にかけて「低出生体重児は成人期に糖尿病や高血圧、高脂血症など、いわゆるメタボリックシンドロームを発症するリスクが高い」という疫学調査の結果が相次いで報告されました。イギリスのBarker先生らはその結果をもとに「胎児プログラミング仮説」を提唱しました。この仮説では、子宮内で低栄養に曝された胎児は出生体重が減少するばかりかその環境に適合するための体質変化が生じ(エネルギーをためこみやすい体質に変化し)、出生後に児の栄養環境が改善すると相対的な過栄養状況となるためこれらの疾病を発症するリスクが高くなる、というような説明がなされました。しかしこの胎児プログラミング仮説では、低出生体重児とならないような児の体質変化、生活習慣病以外の疾病リスク、世代を超えて伝搬しうる疾病リスクや栄養環境以外で生じる体質変化などを説明することができません。このような胎児プログラミン仮説の限界を受けて、Gluckman先生とHanson先生が提唱したのがいわゆるDOHaD仮説です。


 胎児プログラミング仮説が一般化されたDOHaD仮説では、「発達過程(胎児期や生後早期)における様々な環境によりその後の環境を予測した適応反応(predictive adaptive response)が起こり、そのおりの環境とその後の環境との適合の程度が将来の疾病リスクに関与する」と考えられています。DOHaD仮説で生じるとされる体質変化、すなわちpredictive adaptive responseが起こるメカニズムも、最近の研究から徐々に解明されてきました。この反応は遺伝子の発現部位を調節するエピゲノム変化を介して起こることがわかっています。遺伝子の発現部位を調節するこの機構は、食物や薬物、ストレスなど後天的な要因によって起こる遺伝子の化学修飾です。このエピゲノム変化によって発現する遺伝子の調節がなされるため、疾患発症のリスクが変化すると考えられています。しかもこのエピゲノム変化は世代を超えて遺伝しうることが議論になっており、その一部は可逆的であることも報告されています。


 胎児期や生後早期のいわゆる発達過程は、将来の病気のリスクを決定するいわばwindow periodです。この時期からのよりよい食育や成育環境を通して将来の疾病リスクを減ずること、さらに個々の遺伝的背景をもとに疾病リスクに対して早期から介入していく、いわゆる「先制医療」の概念が注目されています。「病気になる人を待つ」これまでの医療とは全く異なった「先制医療」が今後求められる時代がやってくるかもしれません。

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