Department of Biochemistry, School of Dentistry

研究プロジェクト

(1) 反応性分子種による骨・軟骨代謝調節

関節リウマチや変形性関節症の際の軟骨変性の機序について培養軟骨細胞を用いて解析しました。その結果、炎症性サイトカイン刺激により反応性窒素・酸素種の産生が亢進し、ミトコンドリア障害を伴う細胞死に至ることを見出しました。また、活性酸素種に依存した酸性化とそれに伴う細胞外マトリクス分解を見出しました。近年、硫黄原子が複数連結した、活性硫黄分子種が生体内で作られることが発見されました(東北大学・赤池ら)。私たちの研究から、活性硫黄分子種が骨吸収と骨形成に必要であることが示唆されました。さらに、軟骨細胞の増殖と骨成長にも活性硫黄分子種が重要な役割を果たしていることを見出しました。

(2) 8-nitro-cGMPの骨・軟骨組織における役割

8-nitro-cGMPは、一酸化窒素(NO)と活性酸素の細胞内シグナル分子です(東北大学・赤池 ら)。私たちは、東北大学との共同研究により、マウス成長板軟骨の増殖軟骨細胞で作られる8-nitro-cGMPが軟骨細胞の増殖を促進し、長管骨の伸長を促すことを発見しました。また、8-nitro-cGMPによる破骨細胞の分化の促進を見出した。このことから、8-nitro-cGMPは骨の成長とリモデリングの重要な調節因子であることが示唆されました。

(3) 骨代謝におけるプロテアーゼの役割

代表的な歯周病原菌Porphyromonas gingivalisが産生するプロテアーゼの一種リシン特異的ジンジパイン(Kgp)が破骨細胞分化抑制タンパク質であるオステオプロテゲリン(OPG)を分解し、破骨細胞形成を促進することを明らかにしました。さらに、炎症の場に集まる好中球が放出するエラスターゼがOPGを分解することを報告しました。これらは、プロテアーゼによるOPGの分解が重要な骨代謝調節機構のひとつであることを示唆しています。

(4) 硬組織細胞における骨形成タンパク質BMPの機能

骨形成タンパク質BMP(Bone Morphogenetic Protein)は初期発生から骨格形成まで、生体において様々な生理活性を有することが知られています。私たちはBMPが間葉系細胞から分化誘導される骨芽細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、脂肪細胞や造血細胞から分化誘導される破骨細胞などの細胞に対し、どのような影響を与えるか検討しています。

(5) 神経堤由来細胞による硬組織誘導

神経堤は、胎生期の神経管形成時に、神経板の陥入によって形成された神経褶が融合して表皮直下に現れる一過性の組織です。分化が進み隣接する外胚葉から切り離されて神経管が形成されると、神経管と外胚葉上皮との間に取り残された背側神経管の一部が神経堤細胞になります。その後、神経堤細胞は上皮–間葉転換を伴いながら脱上皮化した、いわゆる神経堤由来細胞となって上皮から間葉へ胚内を広く遊走し、定着先の環境によって様々な細胞種や組織に分化することが知られています。一部の神経堤由来細胞は胎生期のみならず成体マウスの体内各所に、多分化能を維持したまま未分化な状態で潜伏することから、再生医療や細胞移植治療の細胞ソースとして期待されています。私たちは成体の口腔顎顔面領域に存在する神経堤細胞由来細胞の高純度純化法と、細胞を利用した効率的な硬組織誘導法の確立を目指しています。

(6) モノカルボン酸トランスポーターによる骨代謝調節機構

モノカルボン酸トランスポーター(monocarboxylate transporters: MCT)は細胞膜に存在する乳酸やピルビン酸などの輸送担体です。MCTは筋肉や肝臓をはじめ、さまざまな組織でエネルギー代謝の調節や細胞内外pHの調節に寄与しています。私たちは、このMCTが骨芽細胞・破骨細胞・軟骨細胞などの硬組織を構成する細胞にも存在し、骨芽細胞・破骨細胞の分化を制御すること、軟骨細胞の炎症性細胞死を誘導することなどを発見しました。これらのことから、MCTは骨・軟骨などの硬組織の恒常性を保つ上で重要な役割を担っていると考えられます。私たちは、このMCTを介したモノカルボン酸の輸送が骨代謝を調節する機構の解明に取り組んでいます。

(7) 骨芽細胞や破骨細胞の分化に対する糖質の影響

一般的に、人間は最も多くのエネルギーを糖質から摂取しています。近年、生活習慣病の増加や糖質制限食の流行など、生体内における糖質の働きについての関心が高まっています。しかし、細胞レベルでの糖質の影響についての解析はまだ十分ではありません。私たちは、グルコースやスクロースなどの食物中に含まれる代表的な糖質が骨芽細胞・破骨細胞・軟骨細胞などの硬組織を構成する細胞の分化及び機能発現に及ぼす影響について解析を行い、特定の種類の糖質が破骨細胞分化を変化させることを発見しました。現在、糖質を利用した新規骨代謝調節治療薬の開発に向けて研究を行っています。

(8) 終末糖化産物(AGEs)およびメチルグリオキサールが骨基質に及ぼす影響

終末糖化産物(Advanced Glycation End products: AGEs)はタンパク質に糖が結合して形成された物質の総称です。生体内におけるAGEsの増加はさまざまな疾患の発症や進展に関与すると言われています。メチルグリオキサールは解糖の過程で生じる物質で、AGEsの前駆物質のひとつです。私たちは、メチルグリオキサールが、骨芽細胞が作る石灰化物の物性を変化させることを発見しました。現在、メチルグリオキサールが骨基質に及ぼす影響について解析し、糖尿病などの糖代謝異常疾患における骨基質の変化について研究を続けています。

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