歯周病による歯周組織の破壊に大きく影響を与えるのは、口腔の常在菌からなるデンタルプラーク・歯垢(抗生剤やうがい薬では死滅しないバイオフィルムを形成しています)による炎症と、生理的な許容範囲を超えた咬合力やブラキシズムによる外傷です。歯周病治療がわかりにくいのは、歯冠修復や歯科補綴、インプラント治療などと異なり、治療効果としての歯周組織の変化(歯肉の炎症や歯の動揺の改善、組織治癒や再生)がゆっくりと起こるからです。治療回数でその改善効果を推し量ることが難しく、つまり計画を立てにくいのです。同じ保存系治療でも、歯質欠損に対するレジン充填処置は結果が即時に見える処置ですが、歯周治療は効果が短期間で見えにくいといえます。また患者様の生活習慣や環境、医学的背景など術者がコントロールしにくい多数の因子の影響があることも「わかりにくくしている」要因です。
歯周治療は個々の歯の歯周病だけを診ているのではなく、一口腔の維持という視点で、支台歯の状態やインプラント周囲の状況、さらには咬合状態まで包括的な視点から診療にあたることをめざしています。症例検討ではルーティンにこれらをチェックしていきます。これは、他の専門領域の歯科治療に比べて特別なことをしているのではなく、診療の主たる中に「歯周」の意識を強く持っておこなっているということです。
他科からの依頼を受ける中で「歯周病科に御願いすると歯周病が完全に治る」という期待を感じることがありますが、比較できないほどに良く治るということではなくて、口腔組織の長期的な予後に影響を与えるネガティブな要因が改善され安定してくるという表現が近いのではないかと思います。極端な表現では「歯がもつか、もたないか」となりますが、長期予後を心の隅に意識しつつ歯周組織変化をいつも気にしているといっても良いでしょう。
歯周病の認定医・専門医を取得するための症例では、組織再生療法などが用いられていることが多いのですが、軟組織を扱う外科的なテクニックに加えてMTMや最終補綴、メンテナンスなど一連に行う総合力を養うのが、歯周治療に強くなることといえます。個々の歯科治療技術や全身の状況、生体の変化を把握して総合的に進めます。
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