第11回名古屋新生児成長発達研究会で中野有也先生が特別講演

中野有也先生が第11回名古屋新生児成長発達研究会で特別講演をしました。

特別講演 DOHaDで考える極低出生体重児の神経発達
中野 有也(昭和大学江東豊洲病院 小児内科)

開催形式:Web開催
主催:ノボノルディスクファーマ株式会社

講演時にしていただいた質問と回答

①早産AGA児(極低出生体重児)の出生後の発育パターンについて
体重SDスコアの推移をプロットすると、どの週数でも修正30-31週頃に体重SDスコアの最低値となり(子宮内発育からもっとも乖離し)、その後catch-upに向かうのは興味深い。週数が未熟でも比較的早期に経腸栄養が確立して状態が安定する児もいる中でこのような結果が得られるのはなぜか?というご質問をいただきました。

回答)とても面白い視点であると思いました。基本的に、週数が未熟児なほど経腸栄養確立が遅れたり、無意識に静脈栄養も控えめにしていることが多いことが最も影響していると考えていまます。実際にEarly Aggressive Nutritionとはいっても昭和大学では多くの症例でアミノ酸投与2g/kg/day程度から開始しており、子宮内での栄養所要量4g/kg/dayには大きく及びません。さらに、水分量をある程度固定した場合、昭和大学病院では未熟な児ほど血管作動薬や鎮静などの使用に伴い、静脈栄養としての水分量/アミノ酸投与量が少なくなる傾向にあります。また脂肪製剤も呼吸状態が不安定な児の場合増量を控えたりする場合もあります。また週数が未熟なほど耐糖能が低いため、糖投与に対する高血糖リスクあり、投与エネルギーが減る傾向にあると思います。そのような理由から、週数が未熟なほど喪失する体蛋白が多くcatch-upに時間がかかるのではないかと推測していましたが、他に生理的な/病的な意義がある可能性は否定できないと思います。現在、オーストラリア/ニュージーランドで行われているPROVIDE studyで生後最初の1週間の静脈栄養を1g/kg/day増やすRCTが施行されており、いろいろな結果がでつつあります(文献1)。成長パターンに着目した報告がなされるかはわかりませんが、注目したいと思っております。

②体質リライトが可能な時期
どのような時期に介入すれば体質を書き換えられるのか・・という趣旨のご質問をいただきました。

回答)基本的には「不適切な体質を獲得しない」という視点が最も大切です。Early Aggressive Nutrition(EAN)についての自施設での検討では、早産AGA児ではEANの効果で3歳時点の新版K式発達検査で発達指数が優位に上昇し、正期産正常体重児と同等の発達指数が得られましたが、早産SGA児では発達面についてEANの有意な効果が得られませんでした。これは厳しく言えば、いったん発育不全を生じるような環境に曝露した場合には、もちろんその程度にもよるのでしょうが、出生後早期に介入したとしても発達を改善させることはできないという結果と解釈できます。また体組成についても、講演でもお話しいたしましたが、出生後早期の栄養摂取量はNICU入院中の体組成に大きく影響し、十分な栄養摂取量があれば体組成は正常化に向かう(体脂肪を増やさずにLean Body Massを増加させる)ことにつながりますので、この時期の成育環境がいかに重要かわかります。質問の意図は「いったん獲得した体質を変えられるか」「いったん獲得した体質を変えられるとするとどの時期か」ということかと思います。これについては十分な知見はありませんが、一般に感受期と言われる人生最初の1000日(受胎から2歳まで)が期待できる候補となる時期といってよいでしょう。実際、体組成について、成長ホルモンは筋肉を増やし、背を伸ばして、体脂肪を減らす効果があり、SGAの児にとっては体組成を正常化するのに効果を発揮します。しかし残念ながら3歳以降の成長ホルモン治療で生じたこのような体組成変化は、GH治療をやめると戻ってしまうことが示されています。すなわち、感受期にプログラミングされた体組成という体質は、この時期には書き換えられないことを意味しています。もっと前の介入が必要なのだと思います。倹約型体質における成長のポテンシャル低下や筋肉量低下は、成長ホルモンの作用不足で大部分が説明可能です。発育不全モデルにおけるGH-IGF-1 axisの問題として、肝臓でのGH受容体減少がmiRNAの発現増加によって調整されており、miRNAの低メチル化がそこに関与している可能性が示唆されています(文献2)。しかるべき時期のメチル化供与食がGH-IGF-1 axisを正常化させるなどの手順が考えられますが、検証にはもう少し時間がかかりそうです。


③早産とメチル化について
早産児におけるエピゲノム変化(メチル化)についてのご質問をいただきました。

回答)胎児期は細胞増殖と分化、それに伴う臓器形成・成熟が生じる時期で、各段階には多くのエピゲノム変化が関与しているものと考えられます。残念ながらその詳細な知見は集積しておらず、そのような臓器形成の途上で出生する早産児において、それらのエピゲノム変化が出生後にどのように変化するのか、遠隔期に影響していくのか、については、私が知る限りまだ研究は入り口の部分にしかいないと考えております。・・とはいっても、早産極低出生体重児を対象としたメチル化の網羅的解析などに関する研究は少しずつ進められており、日本では東京大学の鹿嶋先生が成育医療センターの秦先生のグループと共同で研究しております(文献3)。基本的に極低出生体重維持における出生時(臍帯血)のエピゲノム変化の多くは、子宮内で生じているものの一部でその多くは分娩予定日にはコントロール群との差が消失するようです。ただこの時期にも残存しているエピゲノム変化の中に、遠隔期の疾患のリスクにつながるものが含まれているのかもしれません。今後研究が進展しopenになることを願っております。

2022年02月07日