コラム一覧

低出生体重児の将来の体格と隠れメタボ

 出生時の体格が小さい児は、成人期の体格も小さくなりやすいという報告が多くあります。このことは低出生体重児が将来メタボリックシンドローム発症リスクが高いことと一見矛盾しているように思われるかもしれません。メタボリックシンドロームは肥満を介して、糖尿病や高血圧、高脂血症などを生じる病態と考えられているからです。
 「隠れメタボ」という言葉が使用されることがあります。いわゆる肥満ではないのに、糖尿病や高血圧などの異常をもつ人を指して使用されます。最近、この「隠れメタボ」が増えているとニュースになっています(下記リンクをご参照下さい)。このことと低出生体重児の増加している現状、そして彼らのメタボリックシンドローム発症リスクが高いこととは無関係ではないのではないかと思っています。こういったメカニズムを解明し将来の疾病リスクを減弱させるために生後早期からできることがないか模索していくのも、DOHaD研究に必要なことです。あなたは「隠れメタボ」大丈夫ですか?

 

2016年05月02日

倹約表現型の本質とは

「倹約表現型」という用語をご存じすか?
これはまさに燃費の良い体質(=太りやすい体質)のことを指す専門用語です。


低出生体重児はこの「倹約表現型=太りやすい体質」をもっているといわれています。
胎児期に低栄養環境に暴露された胎児は、生まれた後も低栄養環境に適合していけるようにエネルギーを無駄遣いしない燃費の良い体質を獲得して生まれてくるといわれています。これはまさにDOHaD学説の考え方です。

倹約表現型、つまり太りやすい体質の本質とは、以下のような特徴と関係しているのではないかと考えられています。

1. 成長のポテンシャルの低下

低出生体重児は低身長のリスクがあることがわかっています。
体が大きくなるとその体を維持するのにより多くのエネルギーが必要になります。
成長のポテンシャル低下(体を大きくしないこと)は倹約型の体質にとって重要です。

2.体組成の変化

低出生体重児では筋肉がつきにくく、体脂肪がつきやすい傾向があることが知られています。
筋肉量を少なくすることは、基礎代謝を減少させることにつながるため、エネルギーを倹約するのに有利です。その分余剰となったエネルギーにより脂肪蓄積を生じやすくする(体脂肪率が上昇しやすい)傾向があります。

このような特徴は、将来の生活習慣病リスクと密接にかかわっているのではないかと考えられています。低出生体重児では運動機能や生活の活動性が平均的には低下していることを示す報告もあり、低出生体重児では小児期からしっかりとした運動習慣をつけて、しっかりと筋肉をつけていくことが将来の生活習慣病予防につながる可能性があります(詳細はまだわかっていません)。

 

参考文献)

Nakano Y.
Adult-onset diseases in low birth weight infants: association with adipose tissue maldevelopment
J Atheroscler Thromb 2019; PMID 31866623.

中野有也.
【DOHaD】DOHaDからみた体組成の重要性
日本新生児生育医学会雑誌 2019; 31: 337-340.

2020年01月10日

日本DOHaD学会からの提言「我が国の低出生体重児の割合増加」に対する喫緊の対応の必要性

 今年の8月に有名な科学雑誌であるScience上で、日本における出生時体重の減少が、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の長期的なリスクを高めることにつながることへの危惧、これに対して早急な対応が必要であるという警笛がならされました。

 低出生体重児が糖尿病や高血圧などの生活習慣病にかかりやすいことは広く知られつつありますが、日本における成人の平均身長が1980年以降低くなっており、低出生体重児の増加とこれが関連しているのではないかという議論が最近なされていて、改めて日本の現状への危惧がとりあげられたという流れがありました。一部、Science誌の誤解はあるものの(詳細は下記の提言をご覧ください)、日本における出生体重の低下が与える多方面への弊害を危惧する声は、日本を超えて海外においても注目されており、日本社会での認識の低さを考えると日本人研究者としては複雑な思いです。

 日本において出生体重が低下してきた背景には様々な要因がありますが、日本人女性のスリム志向による栄養摂取量不足の問題が大きな理由になっていると考えられています。世界的に見れば、世界中の多くの国で妊娠女性の過度な体重増加(肥満など)がむしろ問題になっている一方で、日本では妊娠女性のやせが問題になっているのです。ただこの問題を解決することは大変難しい部分があります。仮に妊娠女性が生まれてくる赤ちゃんのためにしっかりとした食事をとろうと思っても、それまで獲得してきた食習慣を大きく変えることは難しく、「そんなに食べれない」ということになります。結局は少なくとも思春期くらいまで遡って、行き過ぎたスリム志向と関係したリスクを啓発し、普段からの食習慣を変えていかなければ問題は解決しないのかもしれません。非常に難しい問題ですが、研究者だけではなく、行政を含めた多方面の活動を結集してこの問題にとりくんでいかなくてはいけません。そのためには、国民の間に広くそのリスクがもっとひろく知れ渡り、「どうにかしなくてはいけない」という議論がなされなければならないのだと思います。昭和大学DOHaD班の活動がその一助になることができれば・・・・との思いです。
 

 

2018年12月18日

テロメア短縮とDOHaD

 ”テロメア”というものをご存知でしょうか?テロメアは真核生物がもつ染色体の末端にある構造物で、特徴的な繰り返し配列をもつDNAと様々なたんぱく質からなっています。このテロメアは細胞の分裂に従って短縮することがわかっており、これが細胞の老化、ひいては個体の老化に関係していることが示唆されています。最近はDOHaD領域においても、テロメア短縮と将来の疾病リスクとの関係に注目した研究がなされるようになってきています。テロメアのサイズは成人期の様々な慢性疾患とも関係していることが示唆されているからです。また胎児期の子宮内環境の悪化は酸化ストレスなどと関連していますが、これがテロメア短縮と関連していることを示唆する報告もあります。



 実際に過去の動物を用いた実験によれば、子宮内発育不全後の急進な成長によりテロメアは短縮する傾向がるようです。ヒトを対象とした研究では、低出生体重がテロメアの長さに影響を与えることには否定的な意見もありいまだ結論はだされていませんが、今後議論がなされていくことになるでしょう。一般にDOHaD学説のメカニズムは、遺伝子の発現部位を調節するエピゲノム変化によって説明されていますが、これで低出生体重児における将来の疾病リスクなど、DOHaD学説における全ての現象を説明できるわけではありません。”テロメア”はDOHaD学説のメカニズムを説明するための新たな視点として、今後さらなる研究が進んでくる分野となるかもしれません。

 

参考文献)
Marchetto NM, et al. Prenatal stress and newborn telomere length. Am J Obstet Gynecol 2016; 215(1): 94.e1-8.

 

2017年11月27日

Low Birth Weight and Nephron Number Working Groupからの提言

 早産低出生体重児は、将来高血圧や慢性腎臓病に罹患しやすいことがわかっています。その理由・メカニズムは完全にわかっているわけではありませんが、早産低出生体重児では腎臓の最小単位であるネフロンの数が生涯少ないことがわかっていて、それがリスク形成に関わっていることが推測されています(Brennerが提唱 hyperfiltration理論)。

詳細は下記の別記事をごらんください。



 低出生体重児における慢性腎臓病や高血圧リスクが生じるメカニズムを明らかにし、より早期に介入することで予後を改善させようとする活動が世界的に進んでいます。昨年、ヨーロッパ中心のグループ(Low Birth Weight and Nephron Number Working Group)から、低出生体重児における慢性腎臓病や高血圧リスクと関連した様々な提言がなされました。ここではその提言のごく一部を紹介したいと思います。

・在胎期間・出生体重などの周産期歴を必ず記録すべきである。
・低出生体重児、早産児、発育不全児では、定期的に高血圧、過度な体重増加、アルブミン尿、高血糖の有無をモニタリングすべきである。

【今後に取り組むべき研究】
・ネフロン数や機能腎の量的評価方法を確立
・早産低出生体重児の腎機能フォローアップガイドラインを確立
  フォローのタイミング、クレアチニン or シスタチンCなど
・高血圧または腎機能障害のある極低出生体重児に対して、6歳時からACE阻害剤を開始する無作為化比較試験を考慮
・将来のハイリスク児を予測する新規早期指標をみつけること

 低出生体重児における慢性腎臓病リスクには、前述のようにネフロン数が少ないことが大きく関係していることが推測されています。ただ、ネフロン数は出生体重および出生時の在胎期間と比例することがわかっていますが、同じくらいの在胎期間・体重で生まれた児の中にどうして慢性腎臓病を発症する人としない人がいる理由が十分わかっていません。また、最近の報告では、日本人はもともとネフロン数が少ない傾向がることが示唆されています。今後日本でもハイリスク児を見逃されないためのシステム作りが望まれます。

参考文献)
1) Low Birth Weight and Nephron Number Working Group. The impact of Kidney Development on the life Coure: A consensus Document for Action. Nephron 2017; 136(1): 3-49.

2) Low Birth Weight and Dephron Number Working Group. A developmental approach to the prevention of hypertension and kidney disease: a report from the Low Birth Weight and Nephron Number Working Group. Lancet 2017; 390(10092): 424-428.

 

2018年02月16日

低出生体重児の妊孕性

 ”妊孕性”とは、妊娠のしやすさを表す専門用語です。最近の報告では、将来の低出生体重児は妊孕性が低い、すなわち低出生体重児は妊娠しにくい(妊娠させにくい)ことが示唆されています。Boeri Lらの報告によれば、低出生体重児で生まれた男性は、成人期に男性ホルモン(テストステロン)の血液中濃度が低く、精巣の大きさが小さい傾向があるようです。このほかにも低出生体重児(特にSGA児)では、成長後に性腺機能障害を呈する/妊孕性の低下を認めるとの報告が数多くあります(その一部を下記にご紹介します)。

1) Boeri L, et al. Low birth weight is associated with adecreased overall adult health status and reproductive caoability -results of cross-sectional study in primary infertile patients. PLoS One 2016; 11(11): e0166728
2)Ibanez L, et al. Hypergonadotrophinaemia with reduced uterine and ovarian size in women born small-for-gestational-age. Hum Reprod 2003; 18(8): 1565-1569.
3)Cicognani A, et al. Low birth weight for gestational age and subsequent male gonadal function. J Pediatr 2002; 141(3): 376-379.


 低出生体重児がなぜ妊孕性が低いのか、その詳細なメカニズムはわかっていません。しかしこの問題もDOHaD学説で考えれば、遺伝的な要因以外にも子宮内環境の影響を受けていると考えることができます。実際に、胎児発育不全のあった児は外性器の形成障害が生じやすいことが言われています。外性器の形成障害により、性器が未成熟なまま生まれてくる状態を性分化疾患といいますが、SGA児は尿道下裂などを含めた広い意味での性分化疾患をきたす頻度が高いことが報告されています。このような外性器の形成には、胎児期のアンドロゲン(テストステロンなどの男性ホルモン)や胎盤で産生分泌されるhCGというホルモンが重要な働きをしています。つまり、胎児期にこれらに暴露される量が少ないと、外性器の形成異常がおこりやすくなるのです。低出生体重児(SGA児など)は原因にもよりますが、胎盤が小さい傾向にあり、これはhCG分泌能の低下と関連している可能性があります。また動物実験では母体の低栄養が胎児のテストロン分泌に影響を与えることも示唆されています。しかし胎児期のテストステロン分泌が十分であるか、ヒトで直接的に確認することは残念ながらできません。

 肛門性器間距離(ano-genital distance)は、胎児期のアンドロゲン暴露の指標になることが示唆されています。胎児期のテストステロン分泌が悪く十分な暴露がなされないと、肛門性器間距離の異常(肛門性器間距離が短くなる、一部で長くなるとの報告もあり)が生じることが報告されているのです。例えば、母体低栄養や母体の喫煙、胎児期の環境ホルモン(内分泌攪乱物質)への暴露が、肛門性器間距離の異常を引き起こすことが過去の報告から示唆されています。


 低出生体重児の妊孕性は長期的なフォローアップにより明らかになってくる問題です。日本では低出生体重児の頻度が増えてきましたが、その問題が顕在化してくるのはこれからなのかもしれません。今後の研究の発展により、メカニズムの解明と予防・治療などの対応が明らかにされることに期待したいと思います。


2017年11月27日

生殖補助医療で生まれた児の長期予後

 生殖補助医療とは、不妊症のカップルに対して自然な性交によらず、精子と卵子を受精させて妊娠に導く医療技術のことを言います。一般に、取り出した精子と卵子を体外で受精させる「体外受精」と顕微鏡下で卵子に精子を注入する「顕微授精」とがあります。2010年の統計によれば、我が国で出生した児36人に1人は生殖補助医療で出生しているようです。

 しかし生殖補助医療の歴史はさほど長くなく、生殖医療で出生した児の長期予後については十分な検証ができていないのが現状です。世界で初めて体外受精による赤ちゃんが誕生したのは、1978年イギリスでのできごとです。日本では初めて体外受精による赤ちゃんが誕生したのは1983年でした。顕微授精に至っては、1989年にシンガポールで行われたのが世界初で顕微授精による赤ちゃんが誕生しました。日本でも遅れて1992年で顕微授精による赤ちゃんが誕生しました。つまり、体外受精が行われるようになってからまだ40年足らず、顕微授精に至っては30年もたっていたいのが現状です。当然、生殖補助医療で受胎した児の長期的予後、特に成人期の問題はようやく着目されるようになってきている分野で、今まで十分な検討はされてこなかったといえます。

 最近の動物実験によれば、体外受精・胚移植で出生したマウスは、自然妊娠で出生したマウスと比較して、生後の成長パターンが異なるようです。そして興味深いことに、この成長パターンの違いには性別差があり、受精卵を培養するために使用する培養液の種類によってもそれは異なるということが示唆されています。実際、着床前の人工胚の遺伝子発現を調べたヒトを対象とした研究においても、培養液の違いによりその遺伝子発現が異なることが報告されています。前述の動物実験では、体外受精・胚移植で出生したマウスの長期予後も検討しており、この結果によると雄では成獣期に耐糖能異常が起こりやすいことが示唆されていますが、長期予後についてはヒトではまだわからないことが多いのが現状です。

 生殖補助医療の恩恵をうけるカップルは年々増加しており、我が国においてもそれはなくてはならないものとなりつつあると思います。生殖補助医療で出生した児の長期的予後については、これから明らかにしていかなくてはいけない問題であり、DOHaD研究とも結びつく分野です。今後の研究の発展に期待したいところです。

1) Kleijkers SH, et al. Differences in gene expression profiles between human preimplantation embryos cultured in two different IVF culture media. Hum Reprod 2015; 30(10): 2303-2311.

2) Donjacour A, et al. In vitro fertilization affects growth and glucose metabolism in a sex-specific manner in and outbred mouse model. Biol Reprod 2014; 90(4): 80.


2017年11月27日

LGA児の成長パターンと生活習慣病リスク

 LGA児とは、Large for Gestational Age児の略で、出生時の体格が在胎期間に比してかなり大きい児をさしていいます。具合的には、出生体重および身長が、在胎期間ごとの標準値の90パーセンタイル以上の児のことをLGA児といいます。これは、在胎期間に対して出生体重や身長が小さい児(SGA:Small for Gestational Age)と真逆の概念です。一般に、低出生体重児(およびSGA児)では将来の糖尿病、高血圧、高脂血症など、いわゆる生活習慣病のリスクが高いことが知られていますが、LGA児も同様にそのリスクが高いことをご存知でしょうか?

 過去の出生体重別の糖尿病罹患率に関する検討を見ると、出生体重を横軸、糖尿病罹患率を縦軸とした場合、罹患率はU字型を示すことが報告されています。すなわち、出生体重が小さいことと同じように、出生体重が大きすぎることも将来の糖尿病罹患のリスク因子になっているのです。以前の記事で紹介しましたが、最近報告された小児期の出生体重別の内臓脂肪蓄積の評価でも、同様の結果が得られているようです。

 

 LGA児の生活習慣病リスクについては、低出生体重児やSGA児ほど十分検討されていません。SGA児では生後の成長の過程で、多くの児は主に乳幼児期に小さかった体格がある程度おいつくための成長が認められることがわかっています(catch-up growth)。SGA児ではこのcatch-up growthが急進なほど、将来の生活習慣病リスクが高いとされ、こういった疫学的事実がもとになって提唱された「適合・不適合パラダイム」がDOHaD学説の重要な概念となっています(詳細はトップページから"DOHaDとは"をご覧ください)。LGA児の多くは、乳幼児期に逆に成長が緩やかになり、AGA児の成長に近づくいわゆる”catch-down growth"があることがわかっています。適合・不適合パラダイムに当てはめて考えれば、これは不適合状態となりますので、疾病リスクはむしろ上昇してしまいそうですが、実際のところはLGA児のcatch-downは将来の生活習慣病リスクを減少させることが報告されています。このような事実は、適合・不適合パラダイムの矛盾点・問題点として一部認識されています。

 低出生体重児の疾病リスクばかりが注目されていますが、LGA児も同様に将来の生活習慣病リスクが高いことは間違いないようですから、彼らの疾病リスクを減ずるための方策も今後もっと検討されていかなくてはならないでしょう。

参考文献)
Johnsson JW et al. Pediatr Obes 2015; 10: 77-83.
Taal HR, et al. Obesity 2013; 21: 1261-1268.

2017年04月11日

NICU入院中の痛みストレスと発達障害のリスク

 NICU(新生児集中治療室)は早産低出生体重児にとっても非常に特殊な環境であるといえます。本来であれば、彼らが成育する環境はストレスの少ない子宮内だからです。しかし、早産低出生体重児として生まれた彼らは、その週数・体重が未熟であればあるほど、様々な疾病リスクや合併症に対してのマネジメントが必要になったり、時には何らかの介入をせざるを得ないことがあります。そのなかには痛みを伴うような処置や侵襲的な治療もあり、彼らは生きていくためにそのような処置をある程度受けざるを得ないのが現状です。このような痛みを伴う処置は、早産低出生体重児の将来に何らかの影響を与えているのではないか、ということについて調べた研究がいくつかあります。

 比較的最近報告されたシステマテックレビューによれば、超早産児では、痛み刺激を伴う処置を受けた数数が多ければ多いほど、生後の成長が遅れる傾向にあり、小児期の発達障害のリスクも高くなることが指摘されています。また、そのような児では、小児期の脳の発達、特に大脳皮質の発達(厚さ)に違いが認められるようです。妊娠中の母体への過剰なストレスが、生まれていくる児の認知力など知的能力に影響を与えることを示唆する文献を過去に紹介しましたが、同様の機序が関与しているのでしょうか・・・・。NICUでの痛み刺激が将来の児の予後に与える影響については、もっと長期的な予後への影響も含めて十分な検討はなされていないので、これらを明らかにすることは今後の一つの課題となるでしょう(関連する記事については下記をご覧ください)。

参考文献)
Valeri BO, et al.Neonatal pain and develomental outcomes in children born preterm: a systematic review. Clin J Pain 2015; 31: 355-362.

 

 現在「NICUに入院する新生児を痛みから可能な限り護ろう」という動きは日本にもあり、2015年1月に日本新生児成育医学会を通して、「NICUに入院している新生児の痛みのケアガイドライン」が作成されました。

 このガイドラインの提言をを一部紹介すれば、「人をケアするということは、その人をかけがえのない存在としてとらえ、尊敬、理解し、その人を支え、世話をする、さらには、その人との一体感を持つことである。新生児は言葉を持たない、それ故に、新生児をケアする者には、新生児が置かれている状況や立場に立ち、新生児が発する生理・行動上のあらゆる表現を通して、心身の有り様をわかろうとする努力が必要である。したがって、専門職としてチームを構成する医療者は、新生児が経験する痛みをどのように捉え、家族とともにどのように関わっていくべきか、互いの経験を分かち合い、科学的な学びを深め合うことを通して、他者理解と尊重、利他を重んじる価値観を自らのうちに育て、専門職としての責任を果たしていくことが重要である」というようなことが書かれています。

 このガイドライン作成の背景には、新生児の人権を守ろうというような趣旨が強く感じられます。それ自体は大変重要でもっともではあるけれど、神経学的予後改善という新しい観点で「痛みのケア」を考えることは、我々新生児科医にとっても新たな気づきにつながるのではないでしょうか。NICUでのストレス環境を制御することで、将来の疾病リスクを減らそうという取り組みは、今後のDOHaD研究の一つの重要なテーマになりうると感じますが、現在はDOHaD研究の中でもあまり注目されていないのではないかと思います。今後の取り組むべき大きな課題の一つであると感じています。



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2017年05月05日

早産低出生体重児の体組成と計測値の信頼性

 早産低出生体重児は将来、糖尿病や高血圧、高脂血症などのいわゆる生活習慣病を罹患するリスクが高いことがわかっています。一般にこれらの疾病は、肥満や内臓脂肪蓄積に端を発したインスリン抵抗性(血糖を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなっている状態)が関与すると考えられており、肥満や内臓脂肪蓄積を介してこれらの複数の疾病に罹患した状態を、メタボリックシンドロームと呼称します。

 以前の記事でも紹介しましたが、低出生体重児は成人期になっても小柄な人がむしろ多く、糖尿病や高血圧、高脂血症などの疾病を複数罹患していたとしても、肥満症やメタボリックシンドロームの基準は満たさない場合がしばしばあるようです。肥満やメタボリックシンドロームの基準は世界的に統一されておらず、そのことも状況をややこしくしていますが、本邦では腹囲(内臓脂肪を間接的に評価)が診断に重要視されているため、小柄な早産低出生体重児では腹囲は必ずしも大きくならないので、メタボリックシンドロームの診断基準を満たしにくいのではないかと考えられます。最近、「隠れメタボ」が増えていることがニュースになっています。隠れメタボとは、いわゆる肥満ではないのに、糖尿病や高血圧などの異常をもつ人を指して使用されます。このことと低出生体重児の増加している現状、そして彼らのメタボリックシンドローム発症リスクが高いこととは無関係ではないのではないかと思っています。

 

 なぜ、見た目はそれほど太っていない早産低出生体重児出身の方が、生活習慣病に罹患しやすいのか、その詳細はわかっていません。しかし、その理由の一つとして、早産低出生体重児出身の方は”隠れ肥満”が多いことがあげられます。早産低出生体重児の体組成は、筋肉などのLean body massが少なく、体脂肪率が高いことがわかっているからです。そして成人になってもある程度その傾向は続いているようなのです。そのため、早産低出生体重児では見た目はやせていても、意外と体脂肪とくに内臓脂肪が蓄積している可能性があり、それが生活習慣病リスクに関与している可能性があります。また、早産低出生体重児においては、生後早期に体脂肪量蓄積の評価を簡便に行うことが難しいことにも注意が必要です。通常、体脂肪蓄積の評価を最も簡便に行う方法は身体計測です。例えば、Body Mass Index (BMI)は、成人および小児の体脂肪蓄積を推測するうえで世界的に最もよく使われる指標です(乳児期はカウプ指数といいます)。しかし最近の報告では、早産低出生体重児における体脂肪蓄積はBMIではあまり正確に評価できないことが指摘されています。

 それほど太っていない早産低出生体重児出身の方が、将来生活習慣病に罹患しやすいもう一つの理由は、肥満や内臓脂肪蓄積とは異なるメカニズムでこれらの疾病リスクが生じているのではないかということです。これも過去の記事で紹介しましたが、早産低出生体重児は腎臓を構成する単位であるネフロンが生涯少なく、これが慢性腎臓病や高血圧リスクと関連している可能性が考えられています。このことは肥満に伴う脂肪蓄積、特に内臓脂肪蓄積とは無関係な機序です。また、体組成の変化に伴う筋肉量の低下も非常に大きな問題です。実際に、早産低出生体重児(極低出生体重児を対象とした検討)では、成人期になっても筋肉量が少ない傾向があり、それと関連してか基礎代謝が落ちていることが報告されています。

 

 早産低出生体重児における生活習慣病リスクについては、いまだ不明な点が多いのが現状ですが、生後早期の成育環境にその原因の一端があることはおそらく間違いありません。病態が解明されることで、多くの早産低出生体重児出身の方の将来の疾病リスクがコントロールできるようになればと願っております。

 

 

2017年04月10日

出生体重と将来の内臓脂肪蓄積との関係

 メタボリックシンドロームは、糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病に複数罹患した状態です。その背景には内臓脂肪蓄積を介したインスリン抵抗性(血糖を下げるインスリンが効きにくくなる状態)があることがわかっています。内臓脂肪の評価は臍部CT(Fat-scan)で評価することができますが、実際にはより簡易的な方法として、内臓脂肪蓄積を反映する腹囲を評価することで診断されます。小児では腹囲(絶対値)での評価の場合には過小評価してしまう可能性があるため、下記のような基準が用いられています。

腹囲の基準①を満たしたうえで、②~④のうち2つ以上を満たす場合に診断
① 腹囲の増加(中学生80cm以上、小学生75cm以上ないし腹囲/身長比0.5以上)
② 中性脂肪が120mg/dal以上ないしHDLコレステロールが40mg/dl未満
③ 収縮期血圧125mmHg以上ないし拡張期血圧70mmHg未満
④ 空腹時血糖100mg/dl以上
注)採血が食後2時間以降である場合は中性脂肪150mg/dl以上、血糖100mg/dl以上を基準としてスクリーニングを行う

 低出生体重児は生活習慣病罹患のリスクが高いことがわかっていますが、出生体重と内臓脂肪蓄積の関係性にはどのような傾向があるのでしょうか?過去の検討によると、やはり低出生体重児では内臓脂肪蓄積が生じやすいようで、成人において出生体重は内臓脂肪量と負の相関を示すとの報告が散見されます1,2)。早産低出生体重児においては、分娩予定日には内臓脂肪が増加しているとの報告もあります3)。ごく最近の別の報告によると、思春期の評価で内臓脂肪量と出生体重児の関係はU字型を示すようです4)。すなわち、出生体重が大きくても小さくても内臓脂肪蓄積は生じやすくなることが示唆されます。そしてインスリン抵抗性もそれと同様に、出生体重を横軸として関係性を見た場合にU字型を示すことが報告されています。低出生体重児における内臓脂肪蓄積のメカニズムは十分わかっていませんが、そのような傾向があることは間違いなさそうです。日本人でも同様の傾向が認められるかはいまだわかっておらず、今後の課題となるかもしれません。

1) Rolfe Ede L, Loos RJ, Druet C, et al. Association between birth weight and visceral fat in adults. Am J Clin Nutr 2010; 92 :347-52.
2) Ronn RF, Smith LS, Andersen GS, et al. Birth weight and risk of adiposity among adult Inuit in Greenland. PLoS One 2014; 9: e115976.
3) Uthaya S, Thomas EL, Hamilton S, et al. Altered adiposity after extremely preterm birth. Pediatr Res 2005; 57: 211-5.
4) Stanfield BK, Fain MB, Bhatia J, et al. Nonlinear relationship between birth weight and visceral fat in adolescents. J Pediatr 2016; 174: 185-92.

 

2016年10月17日

帝王切開で出生した児の肥満リスク

 帝王切開で出生した児は将来肥満になりやすいという報告が数多く存在することをご存じだろうか?
最近のreview articleによると、帝王切開で出生した児は経腟分娩で出生した児と比較して、小児期に肥満となるリスクが34%高いという。このリスクは母体の妊娠前体重などいくつかの交絡因子を調整しても残存することが示唆されている。
 このようなリスクが生じるメカニズムの詳細はいまだ解明されていないが、帝王切開で出生した児と経腟分娩で出生した児の腸内細菌叢の違いがそれに関連していると考える研究者は多い。最近、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)は様々な疾病発症のリスクと関連していることが示唆されており、帝王切開で出生した児が獲得する腸内細菌叢は、経腟分娩で出生した児が獲得するそれとは異なっていることも指摘されている。実際、抗菌薬投与と将来の肥満リスク増大を指摘する報告もあり、これは同様に抗菌薬投与が腸内細菌叢を変化させることが原因の一つであると推測されている。
 早産低出生体重児は一般に帝王切開で出生する頻度が高い。また、抗菌薬を使用する機会も多く、それらも将来の疾病リスクと関連しているのかもしれない。医療上必要な場合には当然いたしかたないが、安易な理由で帝王切開を選択することが将来の児の疾病リスクにまで影響を与えるのだとすれば、慎重に適応を判断すべきであるといえるだろう。

Kuhle S, Tong OS, Woolcott CG. Association between caesarean section and childhood obesity: a systematic review and meta-analysis. Obes Rev 2015; 16(4): 295-303.

 

2016年05月17日

母乳バンクの必要性について

 母乳栄養は新生児・乳児にとって最適の栄養です。母乳栄養の重要性は特に早産低出生体重児で顕著であるため、未熟性が強い早産低出生体重児を管理するNICU(新生児集中治療室)では、母乳栄養をすすめることの意義が児の疾病リスク軽減の観点から非常に重要視されています。特に超早産児(在胎28週未満出生の早産児)においては、壊死性腸炎などのリスクを最大限減らすためには、人工栄養では代替えできないと考える小児科医・新生児科医が多いのではないかと思います。また、DOHaDとの関連においても、母乳栄養には様々な長期的な疾病リスクを軽減する効果が示唆されており、そのメリットは計り知れません。

母乳栄養と将来の肥満リスクに関しては下記の記事をご覧ください。

 

 一方で、時に重症のミルクアレルギーなど児側の要因や、授乳中の母体への投与薬剤、母乳の分泌量などの問題で、十分な母乳栄養を継続できない例が存在することは事実です。母乳栄養の利点を伝えることは重要ですが、このことが母乳栄養を継続できない母親に対しての過度なプレッシャーとなることは回避しなければいけません。母乳栄養の意義を啓発することと同じように、母乳が得られない状況にどう対応していくのかという問題、母乳栄養を断念せざるを得ない母親への心理的サポートは重要視されるべきでしょう。

 早産低出生体重児で母乳栄養の利点が非常に高いと判断される場合、言い換えれば人工乳の使用に大きなリスクがあると主治医が考える場合には、多くの施設で過去には”もらい乳”がなされていました。これはすなわち、他のお母さんから母乳をもらう行為です。しかし”もらい乳”には母乳を介した感染症伝搬のリスクがあるため、必ずしも推奨される行為ではありません。現在の日本のNICUでは、”もらい乳”は限定された施設・症例で行っているのが現状です(施設によっては最大限感染症に対する配慮を行ったうえで”もらい乳”を行ってる施設もあります)。

 WHOは極低出生体重児(出生体重が1,500g未満の児)など、未熟性の強い児に対する経腸栄養をすすめるにあたりお母さんの母乳が十分に得られない場合には、donor human milk(ドナーから提供された母乳)を使用すべきであることを推奨しています。実は世界的には、ドナーからの提供を受けた母乳を保存し、感染症のリスクの有無を評価し安全性の確保できた母乳のみを必要な施設に提供するという、いわゆる「母乳バンク」が設置されている国がたくさんあるのです。これは献血をもとに、必要な病院に輸血を提供する”日本赤十字社”の役割に近いものですが、残念ながら日本には対外的に母乳を提供できる正式な母乳バンクはないのが現状です。最近の報告では、日本の新生児科医の70%以上が日本にも母乳バンクが必要であると考えているようです。

 現在、昭和大学小児科では、昭和大学江東豊洲病院で母乳バンクの設立に向けた準備が進んでいます。水野克己先生を中心に行っているこの母乳バンク設立が実現すれば、より多くの施設にdonor human milkを提供することが可能となり、多くの早産低出生体重児がその恩恵をうけることができるようになるでしょう。母乳栄養には急性期のみならず長期的な疾病リスクを軽減する"DOHaD"的な効果も示唆されていますから、その意義は非常に大きいものと思われます。母乳栄養がもつ疾病リスク軽減効果については、別の機会に取り上げたいと思います。

Mizuno K, Sakurai M, Itabashi K. Necessity of human milk banking in Japan: Questionnaire survey of neonatologists. Pediatrics Int 2015; 57: 639-644.

 

2017年06月05日

DOHaDを用いて説明? 虐待に伴う性格変化

 幼少期に虐待を受けると攻撃的な性格になることを示唆する報告がある。感受期の小児に対する虐待が児の性格形成に影響を与えるというのは、なんとなく納得できる話である。しかしこのような性格変化がどのような機序で生じるのかについては十分検討されてこなかった。

 DOHaDは「感受期の成育環境が将来の健康や疾病リスク(体質)に影響を与える」という概念である。感受期に虐待というストレスを受けることにより児にどのような影響が生じうるのか、DOHaD学説を用いて検討した報告がある。

 幼少期に虐待を受けたサルのモデルでは、脳と血液において4,000以上の遺伝子でDNAのメチル化異常が認められるという。DNAのメチル化とは、DNAの発現部位を調整するエピゲノムの変化であり、いわゆるDOHaD学説の根幹をなすメカニズムである。また、攻撃的な性格の持ち主はインターロイキン6が低下しており、この遺伝子のメチル化異常が見いだされるという。感受期に生じた虐待(ストレス)がこのようなDNAのメチル化異常を起こし、それが性格形成に影響を与えているのかもしれないが、詳細はわかっていない。
 Tremblayらによるカナダの大規模な疫学調査では、こういったこどもの多くは早期の介入により攻撃性が低下することが示されている。DOHaDで生じたDNAメチル化異常はその後の環境により変化しうることがわかっている。原因究明と早期介入により、こどもの将来をより良い方向に変えることができるのだとすれば、小児科医として大きな喜びである。

                         参考文献)Hall SS. Nature 2014; 505: 14-17

2016年05月02日

DOHaDと進化論 獲得形質は遺伝する?

 進化論で「獲得形質は遺伝するのか」という議論があるのはご存知でしょうか?獲得形質とは生まれつき備わった能力や性質ではなく、必要に迫られて生後に獲得した能力のことです。生後に訓練して足が速くなった場合、お子さんにその足の早さが遺伝するのでしょうか?

 次世代に親の性質が遺伝するのは遺伝子(遺伝子配列)によるものですので、生後に獲得した形質は次世代には遺伝しないというのが生物学的な常識でした。生後の環境によって遺伝子の配列は変化しないと考えられているからです。すなわち、生まれつき足の速い体質をもった人は、先祖が代々走る訓練をしてきたからではなく、キリンの首が長いのは代々高いところにある餌を食べているうちに長くなったわけではないということです。

 しかし近年DOHaD研究と関連して、遺伝子の発現部位を調整するエピゲノムの働きが解明されこの論争が再度熱を帯びています。DOHaDで生じる疾病リスクの変化は、環境因子(栄養やストレスなど)の影響をうけて、遺伝子の発現部位を調整するエピゲノムに後天的な修飾が起こることで生じると考えられています。そしてこの後天的に生じたエピゲノム変化の一部は世代を超えて伝搬しうることも示唆されています。さらにごく最近の報告によれば、特定の条件下で、獲得形質はRNAを介して遺伝しうることが示唆されています。こういった知見は「獲得形質は遺伝しうる」ことを示唆しており、環境の記憶が次世代に伝搬される新しいメカニズムの探索が現在もなされているのです。

 我々の行いが将来の祖先の体質にまで影響を及ぼしているとすれば、みなさんはどのように感じるでしょうか?自分の子孫に大きな迷惑をかけることのないようにしたいものです。

2016年05月02日

DOHaDで考える嬢王蜂とロイヤルゼリー

 嬢王蜂の餌は何かをご存じだろうか?働き蜂やオス蜂が蜜を餌としてるのとは異なり、嬢王蜂はローヤルゼリーを主食としている嬢王蜂は遺伝的には働き蜂と同じであるにもかかわらず、生後ローヤルゼリーを与えられ続けることで、働き蜂よりかなり大きな体型となり多くの卵を産めるようになる。このような変化はどのようなメカニズムで生じているのだろうか?単に栄養価が高いという理由で、遺伝的には同じ蜂にそのような変化が生じるのだろうか?

 ローヤルゼリーにはDNAの低メチル化作用があることがわかっている。DNAのメチル化とは遺伝子の発現部位を調節するエピゲノム変化の一種である。通常、葉酸補充や精神ストレスによって生じたDNAのメチル化は、その領域の遺伝子発現を抑制する方向に働く。逆にDNA低メチル化は、その領域の遺伝子発現をonにする役割を担う。そのため、ローヤルゼリーによってDNAの脱メチル化が生じると、遺伝子発現が活性化することになる。これまでの研究から、嬢王蜂がローヤルゼリーを食べ続けることによって生じる体質変化は、このDNAの脱メチル化によって生じることが判明した。これは出生後に摂取する食事(食餌)によって後天的なエピゲノム変化とそれに伴った体質変化が生じうることを示すよい例である。

                参考文献) Kucharski R, et al. Science 2008; 319: 1827-1830.

2016年05月02日

DOHaDは畜産に応用できる QBeef

皆さま、DOHaD研究が畜産の分野に応用されていることをご存じだろうか?

 以前、日本DOHaD研究会の学術集会で、九州大学のブランド和牛である”Q Beef”の存在を知ったときは非常に強い感銘を受けた。この牛はDOHaDの概念を用いてつくられた霜降り和牛で、初期成長段階で代謝生理的インプリンティング(刷り込み)を起こすことで、草食でも太りやすい体質を獲得させ、霜降り和牛をつくっているそうである。低出生体重児の生活習慣病リスクというとらえ方とは異なり、DOHaD仮説の概念も分野が違えばよりポジティブな使い方ができるものだと感心した。

 DOHaD仮説は疾病の予防、エピゲノム変化を標的とした創薬だけではなく、畜産やその他の食品分野など医学以外の分野にも革新的な変化を起こしうる概念なのではないかと思う。今後のDOHaD研究の発展に期待したい。

2016年05月01日

早産低出生体重児に対するNICU入院中のマッサージ

 早産低出生体重児、特に極低出生体重児は出生後に保育器に収容され、母親から離されてしまいます。児によって経過は様々ですが、通常は血液検査やその他の検査が施行される機会も多くありますし、感染症やその他の合併症を罹患するリスクも正期産正常体重児と比較すれば高いのが現状です。出生後長期にわたってこのようなストレス環境にさらされること自体が、早産低出生体重児の将来の疾病リスクに影響を与えているのではないかという議論があります。特に、早産低出生体重児は予定日にはLean body mass(筋肉量など)の減少、体脂肪率の増加など、体組成の変化が生じていることがわかっていますが、これはストレス環境に適応するための内因性のステロイド分泌の増加(および治療で用いられるステロイド投与)が影響している可能性があります。

 早産低出生体重児に対するNICU入院中のマッサージの効果を調べた過去の報告では、男児でマッサージが心拍数を減少させる(リラックスさせる)効果が認められたり、NICU入院中の成長において体重増加速度を変えずに体脂肪蓄積を防ぐ効果があることが示唆されています。このような効果には性差があるようですが、その明確なメカニズムはわかっていません。これらの研究は未だ一般化されたものではなく、日常診療でマッサージをすればよいと断言できるものではありませんが、マッサージが極低出生体重児に対するストレスを緩和することで、かれらの成長の質(体組成)を変えたのだとすれば、非常に興味深い結果です。NICU入院中の極低出生体重児に対するストレスの少ない環境を整えることが将来の発達や合併症予防につながるという考え方は、いわゆる「ディベロップメンタルケア」の概念とも通ずるところがあり、今後のDOHaDのひとつの方向性を示しているのかもしれません。今後の展開に期待したいと思tっています。


Moyer-Mileur LJ, et al. Massage improves growth quality by decreasing body fat deposition in male preterm infants. J Pediatr 2013; 162(3): 490-495.

Smith SL, et al. The effect of mechanical-tactile stimulation on the autonomic nervous system function in preterm infants. J Perinatol 2013; 33(1): 59-64

2016年06月06日

乳幼児期の褐色脂肪組織と体組成

 脂肪組織には、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞があることをご存知でしょうか?一般に、脂肪組織は過剰になったエネルギーを蓄える役割をもっていますが、これは白色脂肪細胞がもっている機能です。一方、褐色脂肪細胞は新生児や冬眠動物に豊富に存在するとされ、白色脂肪細胞とは逆に脂肪を燃やすことで熱を産生する役割を持っています。すなわち褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞がため込んだ脂肪を燃やし、低体温と肥満を予防する方向に機能することがわかっているのです。褐色脂肪細胞には筋肉系の細胞系列から発生する古典的な褐色脂肪細胞と、寒冷刺激などにより白色脂肪細胞から変化するベージュ脂肪細胞があります。これまで、褐色脂肪細胞を活性化させることにより、肥満やそれを介した代謝合併症のリスクを軽減しようと、多くの研究が実施されています。例えば、唐辛子の辛み成分であるカプサイシンには、白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞化を促進する作用をもつことが過去の報告から示唆されています。

 最近、出生から生後6か月の間の褐色脂肪組織の変化と、この間の筋組織の発達との関係を調べた検討が発表されました。この検討によると、この時期の褐色脂肪組織の変化は、白色脂肪組織の増加とは関係しておらず、筋組織の発達と関係している可能性があるようです。すなわち、出生後6か月までの間に褐色脂肪組織が減少する量が少ない方が、この時期の筋組織の発達が生じやすいことが示唆されています。一般に、筋組織の発達にとってもっとも重要なのは、運動による筋肉への負荷です。しかし乳児期早期の運動量には個人差がさほどないので、他のメカニズムによる筋肉量の調整が行われていると考えられています。今回のこの報告は、この時期の褐色脂肪細胞がその働きの一部を担っていることを示唆するもので非常に興味深い結果です。というのも、早産低出生体重児は、筋肉量が少なく、体脂肪率が高いことがわかっています。これは、早産低出生体重児における将来の生活習慣病リスクに大きな影響を与えている可能性があるのです。現在のところ、褐色脂肪細胞の減少や機能低下が早産低出生体重児の筋肉量減少に関与しているかどうかは不明です。今後の更なる研究に期待したいところです。

Ponrartana S, et al. Changes in brown adipose tissue and muscle development during infancy. J Pediatr 2016; 173: 116-121.

2017年05月18日

乳児期に乳汁を摂取することの意義(DOHaDと関連して)

 2016年6月23日(木)、日本大学病院で開催された第7回関東小児糖尿病フォーラムに参加してきました。東京医科歯科大学、糖尿病・内分泌・代謝内科教授の小川佳宏先生が、「DOHaD仮説の概念と分子機構」をテーマにご講演されました。小川佳宏先生は、DOHaD分野の研究に取り組む日本を代表する著明な先生の1人です。

 講演の内容はDOHaD仮説(学説)の一般的なお話に始まり、東京医科歯科大学で最近まで取り組んできた先進的なDOHAD研究のご紹介にすすみました。胎児期は臍帯を介して母体から栄養をもらいますが、この時期は栄養として摂取する脂質が比較的少ない時期です。乳汁中には脂肪が豊富に含まれていますので、乳児期は脂質摂取が多くなり、離乳食がはじまり離乳が完了するにしたがって、脂質に変わって糖質の摂取が多くなります。このようなダイナミックな栄養環境の変化、そして乳児期に豊富な脂質に暴露されることこそが、児のエピゲノム変化に関与し将来の疾病リスクに関与するのではないかという立場に立って、マウスを用いた研究を開始したとのお話の導入でした。

 非常に専門的で難しいお話でしたが、ものすごく簡単にまとめると、脂肪燃焼に関わる蛋白質(PPARα)の遺伝子が乳幼児期の活性化されると、それはエピゲノム変化(当該部位の脱メチル化)によって将来に記憶されるメカニズムを実際にマウスで示したというふうに理解しました。乳児期に脂質に富んだ乳汁(一般に脂質は母乳中に多く含まれる)を摂取することでこのような変化が誘導されるのだとすれば、この時期の栄養が将来の疾病リスクに関与するメカニズムのいったんを解明したと考えられ、大変今日深い内容です。

ちょうど論文が出たころ、ニュースにもなっていたのを思い出しました。
関連する文献、ニュースなどリンクしておきますのでご興味のある方はご参照ください。

2016年06月24日

成人期の肥満のリスクが小児期までにある程度決定される理由

 

 肥満の増加は今や世界的な問題です。世界保健機構(World Health Organization: WHO)の報告によれば、18歳以上の成人の39%が過体重であり、13%が肥満であるといいます。一般に肥満は、遺伝要因に加えて、食事や運動などの生活習慣の影響を強く受けて発症するため、いわゆる生活習慣病のひとつと考えられていますが、近年、そのリスク形成に子宮内や生後早期の様々な環境因子も強く関連していることがわかってきています。成人期の肥満のもとは小児期にはすでに形成されていると考えられているのです(これはいわゆるDOHaDの概念で説明されています)。

 肥満は脂肪組織の増大に起因しています。脂肪組織の増大とは脂肪細胞数の増加または脂肪細胞の肥大によって生じていますが、成人期に脂肪細胞の数が多いか少ないかは、小児期までにはある程度決定されていると考えられているのです。例えば過去の報告によると、成人期に肥満である人とやせている人で脂肪細胞の数を比較すると、肥満者の方が脂肪細胞の数が多いことがわかっています。そしてその脂肪細胞が多いという状況は小児期までにはすでに生じていることがわかっているのです。さらに興味深いことに、一度脂肪細胞の数が増えると、減量によってやせても減少しないことがわかっています。やせることによって脂肪組織が減るのは、肥大した脂肪細胞が小さくなるからなのです。つまり、小児期までに脂肪細胞の数が増えると、その傾向は成人期まで続き、かついったん増えた脂肪細胞数は減少しないため、肥満のリスク増大と密接にかかわっている可能性が高いのではないかと推測されるのです。実際に、小児肥満では成人期の肥満につながっていくことが多く経験されます。

 ただ一方で、脂肪細胞の数が少ないことが必ず健康につながるとは限りません。極端な例をあげると、脂肪萎縮性糖尿病という病気があります。この病気では脂肪組織が減少または消失することで、糖尿病などの重大な合併症を引き起こします。脂肪組織は様々なホルモンを分泌する内分泌臓器としても重要であり、脂肪細胞が少ないことにより、糖尿病などを防ぐホルモンが十分に分泌されなくなり、これが病気のリスクにつながるのです。

 帝王切開と肥満のリスクのコラムでも紹介しましたが、腸内細菌叢と将来の肥満リスクの関連も興味深く思います。小児期までの理想的な脂肪組織の発達や腸内細菌叢を得ることが、将来の肥満や関連する病気を防ぐことにつながるメカニズムがもっと詳細に解明されれば、小児期までの食育の重要性がもっと見直されることになるかもしれません。

参考文献)Spalding KL, Amer E, Westermark PO, et al. Dynamics of fat cell turnover in humans. Nature 2008; 453: 783-787.

 

2017年02月17日

三つ子の魂百まで DOHaD学説との関連

 

 「三つ子の魂百まで」という言葉は、みなさんご存知のように「幼いころの性格は年をとっても変わらない」ことを表す諺です。最近の研究では、DOHaD学説と関連してこの諺を裏付けるような報告がなされています。もちろん性格は生まれもった遺伝的な情報に左右される部分も多いのでしょうが、母親の妊娠期間から生後早期までの環境要因の影響も強くうけることが示唆されているからです。

 特にDOHaD学説と関連して注目したいのは、妊娠期の母体への心理的/経済的ストレスが児の神経学的予後や性格形成に大きな影響を与えているという報告です。妊娠中の母体へのストレスは、児の否定的な情動行動(たとえば新しい経験に対する適応力の低下、恐怖や嫌なことに対する耐性の低下など)と関連していることが報告されています。こういった母体の妊娠中のストレス環境は、児の認知力など知的能力にも影響を与えることが示唆されているのです。こういった関係性が生じるメカニズムの詳細はわかっていませんが、ステロイドへの暴露や酸化ストレスとの関連などを指摘する声があります。

 出生後の虐待なども同様に性格変化に関与することを調査した報告もあります。これについては下記の過去の記事をご参照ください。 

 

 上記のような事実を、早産低出生体重児に当てはめてみると、早産低出生体重児において発達障害が多い理由もわかるような気がします。早産低出生体重児は出生体重や週数が未熟なほど、出生後に長期間にわたって集中管理を必要とします(これはおそらく相当のストレスです)。感染症に罹患することも多く、彼らが出生後に暴露されるストレスは計り知れないものがあると推測されます。近年の目覚ましい新生児医療の発展に伴って、未熟性の強い児の救命が可能となり、脳室内出血や脳室周囲白質軟化症などの重大な合併症のリスクも以前と比較すれば小さくなりました。しかし、一見合併症をもたないような未熟性の強い児が、将来発達障害を生じるリスクが一般の児よりかなり高いことは、彼らが生後NICUでうける過大なストレスと無関係ではないのかもしれません。

 ”ディベロップメンタルケア”という概念をご存知でしょうか?この考え方は、早産児の脳の発達とQOLの改善を目的に、Heidelise Als先生らを創始者として発展してきたものです。日本ディベロップメンタルケア研究会の言葉を借りれば、「NICUの臨床において、あたたかい心をはぐくむやさしさの医療と看護、適切な発達を促す環境と刺激、親子の関係性をはぐくむことを基本理念とする」旨が示されています。この概念はDOHaD学説が注目される以前からある概念ですが、まさにDOHaD学説はこの概念を科学的に裏付けすることができる可能性があるのではないかと思います。早産児におけるNICUでの理想的な成育環境を考えるという取り組みは、DOHaDと臨床をつなぐ大きなテーマになりうるのではないでしょうか。

 

参考文献)

1. Gartstein MA, et al. Studing infant temperament via a revision of the Infant Behavior Quertionnaire. Infant Behav Dev 2003; 7: 517-522.

2. Brand SR, et al. The effect of maternal PTSD following in utero trauma exposure on behavior and temperament in the 9-month-old infant. Ann N Y Accad Sci 2006; 1071: 454-458.

3. Lin B, et al. Maternal prenatal stress and infant regulatory capacity in Mexican Americans. Ingant Behav Dev 2014; 37: 571-582.

2017年01月24日

アディポシティリバウンドと心血管代謝疾患のリスク

 アディポシティリバウンド(Adiposity rebound:AR)という言葉をご存知でしょうか?直訳すれば脂肪リバウンドというこの用語は、乳児期に増加した体脂肪が幼児期にいったん減少し、その後成人期に向けて再び増加するという体組成の変化を指して使用されている言葉です。臨床的には体重と身長から算出されるいわゆるBody Mass Index(BMI kg//m2)が、5~6歳で最低値となったあとに再び上昇する現象をもってとらえることができます。

 特にDOHaD学説と関連でこのアディポシティリバウンドが注目されている理由は、アディポシティリバウンドの開始が早いほど肥満になるリスクが高く、若年成人でメタボリックシンドロームや糖尿病を発症するリスクが高いことが示唆されているからです。日本においても独協医科大学小児科の前教授である有阪先生らの検討において、アディポシティリバウンドが早い幼児ほど、思春期年齢において過体重や関連指標の異常をきたしやすいことが明らかになっています。

 このようなアディポシティリバウンドが生じる時期の変化は、出生体重や子宮内環境の影響をうけていることが示唆されていますが、その詳細なメカニズムはわかっていません。しかし、リスクのある人を早期にみつけ、介入によって発症リスクを減少させようという試みは先制医療そのものであり、DOHaDを臨床につなげていくという視点で考えた場合に重要な標的になりうる概念であると思います。実際に、那須赤十字病院小児科/独協医科大学小児科の市川剛先生らは、3歳までのBMIの推移から心血管代謝疾患リスクが高い症例を予測し、肥満を予防するための介入を試みる研究を行っているようですので、その介入効果に期待したいところです。

 一方で早産低出生体重児(特に極低出生体重児)におけるアディポシティリバウンドの有用性については、さらに詳細な検討が必要なのかもしれません。・・・・というのも、早産低出生体重児(特に極低出生体重児)は乳幼児期に小柄な子が多く、小柄な子のBMIでは肥満(脂肪蓄積)を過小評価してしまうリスクがあることを指摘する声があるからです。また、最近の報告では早産低出生体重児においては体組成の変化があり、その影響によりBMIが生後早期の脂肪蓄積を反映しにくいことが報告されています。このあたりの詳細がさらに判明すれば、早産低出生体重児の健診におけるアディポシティリバウンド評価の活用が現実的になってくるのではないかと思われます。

 

 この分野については、市川剛先生には第53回日本周産期学会学術集会のDOHaD関連シンポジウムでご講演いただきましたし、第6回日本DOHaD学会では有阪治先生のご講演もありました。関連する学会の情報や記事については下記をどうぞ。

 

参考文献)

1. Koyama S, Ichikawa G, Kojima M, et al. Adiposity rebound and the development of metabolic syndrome. Pediatrics 2014; 133(1): e114-119.

2. Arisaka O, Sairenchi T, Ichikawa G, Koyama S. Increase of body mass index (BMI) from 1.5 to 3 years of age augments the degree of insulin resistance corresponding to BMI at 12 years of age. I Pediatr Endocrinol Metab 2017; 30(4): 455-457.

2017年09月08日

早産低出生体重児における高血圧および慢性腎臓病のリスク

 早産低出生体重児は、将来高血圧や慢性腎臓病に罹患しやすいことがわかっています。このように、低出生体重児において将来の特定の疾病リスクが高まることは、DOHaDの概念が普及するにつれ認識されつつあると思います。そしてエピゲノム変化がそのメカニズムに大きく関わっていることも最近よく知られるようになっています。ただ、特定の疾患についてそのメカニズムの詳細が判明しているかといば実はほとんどわかっていないのが実際のところと思います。その中で、早産低出生体重児における高血圧や慢性腎臓病リスクは比較的それが生じるメカニズムの詳細が理論的に提案されています。このコラムではそれを紹介したいと思います。

 その人が生涯もつネフロンの数は出生体重や出生時の在胎期間と非常によく相関することが示唆されています。つまり、早産児や低出生体重児は出生時のネフロンが少なく、それは生涯にわたって継続すると考えられているのです。ネフロンは腎臓の主な働きである「尿を作る」ための管状の構造です。一般に1個の腎臓には約100万個あるといわれています。早産低出生体重児はこのネフロンの数が生涯少ないと考えられているのです。

 腎臓がもつ「尿をつくり体の老廃物を体外に排泄するという役割」を果たすためには、十分な血液が腎臓(ネフロン)を通過する必要があります。もし腎臓が持つネフロンの数が少ない場合、少ないネフロンを用いて必要な血液をろ過して尿を作らなくてはいけないので、一つひとつのネフロンに過剰な負担を課すことになるのです。ネフロンの始まりは腎皮質にある糸球体です。ネフロンのへの過剰な負荷は「糸球体高血圧」という状態をおこします。過剰な負担に曝され続けた糸球体は糸球体硬化という状態となり機能を果たせなくなるため、残った糸球体にさらに負担がかかるという悪循環をおこすのです。それによって慢性腎臓病や高血圧などが引き起こされると考えられています。このような理論を「Hyperfiltration Theory」といい最近注目されています。

① Luyckx VA, et al. Lancet 2013
② Carmody JB, et al. Pediatrics 2013
③ Rodriguez MM, et al. Pediatr Dev Pathol 2004


実際、昭和大学小児科でも早産低出生体重児で出生した人の中で、学童期になって慢性腎臓病(蛋白尿)や高血圧を主訴に受診し、検査を通して同様の病態が判明し投薬をうけている方がいます。慈恵会医科大学小児科の平野大志先生の日本人を対象とした過去の報告では、小児期に中等度以上の慢性腎臓病を発症した人は、そうでない人と比較して低出生体重児が約4倍多いようです(下記参照)。ただ、早産低出生体重児の中でどのような人が早期に慢性腎臓病や高血圧を発症するのかは分かっておらず、健診のあり方などもいまだ十分な議論にさえなっていないのが現状です。究極的には、早産低出生体重児がこのような疾病リスクを抱えることのないようなNICUでの管理がわかればさらによいのですが、それが判明するのはずいぶん先になるでしょう。課題は山積しています。


関連する報告です。詳細は下記をご参照ください。

Daishi Hirano, et al. Associateion between low birth weight and childhood-onset chronic lodney disease in Japan: a combined analysis of a nationwide survey for pediatric chronic kidney disease and the National Vital Statitics Report. Nephrol Dial Transplanet 2016; 31: 1895-1900.


 

2017年01月09日

肥満小児の体格評価に関する最近の検討結果の紹介

 肥満は脂肪組織が過剰に体内に蓄積する状態で、皮下脂肪に比べて内臓脂肪の過剰蓄積が多くの合併症を引き起こすことがわかっています。肥満を評価するには、BMI、肥満度、腹囲などのさまざまな体格の指標がありますが、最近はBody Adiposity Index (BAI: 臀囲/身長1.5乗 - 18)がの有用性が発表され、臀囲と身長の比が注目されています。そこで、小児肥満の体格を評価するにあたり、臀囲の意義について検討しました。
昭和大学病院と昭和大学豊洲病院小児科に通院している肥満児を対象とし、男児55例(平均年齢10.5歳、平均肥満度52.5%、平均腹囲85.4cm、平均臀囲87.7cm)、女児35例(年齢9.1歳、肥満度50.2%、腹囲77.7cm、臀囲85.1cm)について検討しました。また、内臓脂肪面積(VAT)と皮下脂肪面積との関連性については、臍高部CT画像を撮影した男児42例および女児23例を対象としました。血液データは身体計測と同時期の早朝空腹時に採血したものを用いました。

得られた結果は下記です。
① 肥満度との関連性について
臀囲、臀囲/身長、腹囲、腹囲/身長、腹囲/臀囲と肥満度との相関をみると、男女合わせて相関係数は各々r=0.410、0.855、0.558、0.879、0.397となり、臀囲/身長および腹囲/身長との相関が高くなりました。近似直線から肥満度を求めると、臀囲/身長が0.626で50.3%となり、腹囲/身長は0.588で肥満度50.1%となった(図1および2)。
② 体脂肪率との関連性について
体脂肪率との相関をみると、臀囲/身長、腹囲/身長が体脂肪率と相関が高いことがわかりました(r=0.592およびr=0.547)(図1および2)。
③ 内臓脂肪面積(VAT)との関連性について
VATとの相関は、腹囲(r=0.675)が最も高く、次に臀囲(r=0.569)、続いて腹囲/身長(r=0.416)となりました(図3)。
④ 血液検査の異常(脂質、肝機能、インスリン)との関連性について
血液検査異常との相関は腹囲が最も高く、臀囲/身長と合併症との関連性は低いことがわっかりました(図4)。

臀囲/身長および腹囲/身長は肥満度や体脂肪率、すなわち過体重との関連性が高い指標であることがあきらかとなりました。内臓脂肪蓄積や合併症の観点からすると、現時点では腹囲が最も良い指標と考えられることが今回の検討から明らかとなりました。

 第43回日本小児栄養消化器肝臓学会で永原敬子先生が本研究結果について発表しました。また同内容についてはすでに論文化されています。さらに詳細を確認したい方は下記の文献をご確認ください。

Dobashi K, Takahashi K, Nagahara K, Tanaka D, Itabashi K.Evaulation of Hip/Height Ratio as an index for adiposity and mtabolic complicartions in obese children: Comparison with waist-related indices.J Atherosler Thromb 2016 Epub ahead of print

 

2016年10月20日