DOHaDを用いて説明? 虐待に伴う性格変化

 幼少期に虐待を受けると攻撃的な性格になることを示唆する報告がある。感受期の小児に対する虐待が児の性格形成に影響を与えるというのは、なんとなく納得できる話である。しかしこのような性格変化がどのような機序で生じるのかについては十分検討されてこなかった。

 DOHaDは「感受期の成育環境が将来の健康や疾病リスク(体質)に影響を与える」という概念である。感受期に虐待というストレスを受けることにより児にどのような影響が生じうるのか、DOHaD学説を用いて検討した報告がある。

 幼少期に虐待を受けたサルのモデルでは、脳と血液において4,000以上の遺伝子でDNAのメチル化異常が認められるという。DNAのメチル化とは、DNAの発現部位を調整するエピゲノムの変化であり、いわゆるDOHaD学説の根幹をなすメカニズムである。また、攻撃的な性格の持ち主はインターロイキン6が低下しており、この遺伝子のメチル化異常が見いだされるという。感受期に生じた虐待(ストレス)がこのようなDNAのメチル化異常を起こし、それが性格形成に影響を与えているのかもしれないが、詳細はわかっていない。
 Tremblayらによるカナダの大規模な疫学調査では、こういったこどもの多くは早期の介入により攻撃性が低下することが示されている。DOHaDで生じたDNAメチル化異常はその後の環境により変化しうることがわかっている。原因究明と早期介入により、こどもの将来をより良い方向に変えることができるのだとすれば、小児科医として大きな喜びである。

                         参考文献)Hall SS. Nature 2014; 505: 14-17

2016年05月02日