早産低出生体重児は、将来高血圧や慢性腎臓病に罹患しやすいことがわかっています。このように、低出生体重児において将来の特定の疾病リスクが高まることは、DOHaDの概念が普及するにつれ認識されつつあると思います。そしてエピゲノム変化がそのメカニズムに大きく関わっていることも最近よく知られるようになっています。ただ、特定の疾患についてそのメカニズムの詳細が判明しているかといば実はほとんどわかっていないのが実際のところと思います。その中で、早産低出生体重児における高血圧や慢性腎臓病リスクは比較的それが生じるメカニズムの詳細が理論的に提案されています。このコラムではそれを紹介したいと思います。
その人が生涯もつネフロンの数は出生体重や出生時の在胎期間と非常によく相関することが示唆されています。つまり、早産児や低出生体重児は出生時のネフロンが少なく、それは生涯にわたって継続すると考えられているのです。ネフロンは腎臓の主な働きである「尿を作る」ための管状の構造です。一般に1個の腎臓には約100万個あるといわれています。早産低出生体重児はこのネフロンの数が生涯少ないと考えられているのです。
腎臓がもつ「尿をつくり体の老廃物を体外に排泄するという役割」を果たすためには、十分な血液が腎臓(ネフロン)を通過する必要があります。もし腎臓が持つネフロンの数が少ない場合、少ないネフロンを用いて必要な血液をろ過して尿を作らなくてはいけないので、一つひとつのネフロンに過剰な負担を課すことになるのです。ネフロンの始まりは腎皮質にある糸球体です。ネフロンのへの過剰な負荷は「糸球体高血圧」という状態をおこします。過剰な負担に曝され続けた糸球体は糸球体硬化という状態となり機能を果たせなくなるため、残った糸球体にさらに負担がかかるという悪循環をおこすのです。それによって慢性腎臓病や高血圧などが引き起こされると考えられています。このような理論を「Hyperfiltration Theory」といい最近注目されています。
① Luyckx VA, et al. Lancet 2013
② Carmody JB, et al. Pediatrics 2013
③ Rodriguez MM, et al. Pediatr Dev Pathol 2004
実際、昭和大学小児科でも早産低出生体重児で出生した人の中で、学童期になって慢性腎臓病(蛋白尿)や高血圧を主訴に受診し、検査を通して同様の病態が判明し投薬をうけている方がいます。慈恵会医科大学小児科の平野大志先生の日本人を対象とした過去の報告では、小児期に中等度以上の慢性腎臓病を発症した人は、そうでない人と比較して低出生体重児が約4倍多いようです(下記参照)。ただ、早産低出生体重児の中でどのような人が早期に慢性腎臓病や高血圧を発症するのかは分かっておらず、健診のあり方などもいまだ十分な議論にさえなっていないのが現状です。究極的には、早産低出生体重児がこのような疾病リスクを抱えることのないようなNICUでの管理がわかればさらによいのですが、それが判明するのはずいぶん先になるでしょう。課題は山積しています。
関連する報告です。詳細は下記をご参照ください。
Daishi Hirano, et al. Associateion between low birth weight and childhood-onset chronic lodney disease in Japan: a combined analysis of a nationwide survey for pediatric chronic kidney disease and the National Vital Statitics Report. Nephrol Dial Transplanet 2016; 31: 1895-1900.