低出生体重児の妊孕性

 ”妊孕性”とは、妊娠のしやすさを表す専門用語です。最近の報告では、将来の低出生体重児は妊孕性が低い、すなわち低出生体重児は妊娠しにくい(妊娠させにくい)ことが示唆されています。Boeri Lらの報告によれば、低出生体重児で生まれた男性は、成人期に男性ホルモン(テストステロン)の血液中濃度が低く、精巣の大きさが小さい傾向があるようです。このほかにも低出生体重児(特にSGA児)では、成長後に性腺機能障害を呈する/妊孕性の低下を認めるとの報告が数多くあります(その一部を下記にご紹介します)。

1) Boeri L, et al. Low birth weight is associated with adecreased overall adult health status and reproductive caoability -results of cross-sectional study in primary infertile patients. PLoS One 2016; 11(11): e0166728
2)Ibanez L, et al. Hypergonadotrophinaemia with reduced uterine and ovarian size in women born small-for-gestational-age. Hum Reprod 2003; 18(8): 1565-1569.
3)Cicognani A, et al. Low birth weight for gestational age and subsequent male gonadal function. J Pediatr 2002; 141(3): 376-379.


 低出生体重児がなぜ妊孕性が低いのか、その詳細なメカニズムはわかっていません。しかしこの問題もDOHaD学説で考えれば、遺伝的な要因以外にも子宮内環境の影響を受けていると考えることができます。実際に、胎児発育不全のあった児は外性器の形成障害が生じやすいことが言われています。外性器の形成障害により、性器が未成熟なまま生まれてくる状態を性分化疾患といいますが、SGA児は尿道下裂などを含めた広い意味での性分化疾患をきたす頻度が高いことが報告されています。このような外性器の形成には、胎児期のアンドロゲン(テストステロンなどの男性ホルモン)や胎盤で産生分泌されるhCGというホルモンが重要な働きをしています。つまり、胎児期にこれらに暴露される量が少ないと、外性器の形成異常がおこりやすくなるのです。低出生体重児(SGA児など)は原因にもよりますが、胎盤が小さい傾向にあり、これはhCG分泌能の低下と関連している可能性があります。また動物実験では母体の低栄養が胎児のテストロン分泌に影響を与えることも示唆されています。しかし胎児期のテストステロン分泌が十分であるか、ヒトで直接的に確認することは残念ながらできません。

 肛門性器間距離(ano-genital distance)は、胎児期のアンドロゲン暴露の指標になることが示唆されています。胎児期のテストステロン分泌が悪く十分な暴露がなされないと、肛門性器間距離の異常(肛門性器間距離が短くなる、一部で長くなるとの報告もあり)が生じることが報告されているのです。例えば、母体低栄養や母体の喫煙、胎児期の環境ホルモン(内分泌攪乱物質)への暴露が、肛門性器間距離の異常を引き起こすことが過去の報告から示唆されています。


 低出生体重児の妊孕性は長期的なフォローアップにより明らかになってくる問題です。日本では低出生体重児の頻度が増えてきましたが、その問題が顕在化してくるのはこれからなのかもしれません。今後の研究の発展により、メカニズムの解明と予防・治療などの対応が明らかにされることに期待したいと思います。


2017年11月27日