第18回新生児栄養フォーラムでLucus先生の基調講演を聴いて
シンポジウム 母乳強化栄養とDonor Milk
座長 順天堂大学小児科 東海林 宏道
昭和大学小児科 中野 有也
基調講演「Exclusively Human Milk Diet」
University College London/Child Nutrition Research, Centre Alan Lucus
1. 個別母乳強化栄養および早期母乳強化栄養
昭和大学小児科 鈴木 学
2. 我が国の母乳強化粉末の課題
森永乳業株式会社 健康栄養科学研究部 和泉 裕久
3. もらい母乳によるESBL産生大腸菌アウトブレイクの経験から
福島県立医科大学感染制御部門 仲村 究
4. Donor Milkと母乳強化
昭和大学江東豊洲病院新生児内科 櫻井 基一郎
【発表内容の紹介(聴講して感じたこと)」
Lucas先生はUniversity College London Childhood Nutrition Research Centreの教授をなさっています。新生児・小児の栄養分野において世界的なleading personの一人です。数えきれないほどの業績を残しているので、詳細を紹介することは難しいのですが、400を超える論文を発表されており、Lucas先生が指導した先生の8名がすでに大学教授になっているといえばそのすごさがわかります。その他にも、1996年にロンドンにChild nutrition research centerを設立されたことは特筆すべき点です。このセンターはヨーロッパで最大の小児栄養の専門施設で、1982年に正式な臨床試験を開始し、生後早期の栄養が長期的なプログラミングに及ぼす影響(まさにDOHaDです)についての多数の臨床研究を行っており、うちいくつか30年以上にわたって前方視的に観察する研究を継続しています。
Lucus先生のお話しは「Exclusively Human Milk Diet」についてのものでした。すなわち、全ての乳汁をヒトの母乳由来のものにしようというお話しです。母乳栄養の重要性は世界的にもよく知られておりますが、早産低出生体重児、特に極低出生体重児において母乳が不足する場合の対応は国や施設において大きく異なります。日本は母乳バンクがまだ一般的ではありません(下記の記事をご覧ください)
通常、NICUでの母乳が不足する場合には牛由来(牛乳由来)の人工紛乳を用いるわけですが、これが短期的にも長期的にもいろいろな病気のリスクを増加させることがわかってきているのです。母乳バンクがもっと普及すれば、これを変えることができるのです。母乳強化パウダーを使用した栄養管理についても、人工乳(未熟児用粉乳)と比較すればずいぶんよいのですが、牛由来(牛乳由来)の蛋白質を用いているという点では、未熟児用粉乳と変わりません。Lucus先生はこれをヒトの母乳由来のパウダーにすべきと考えておられました。実際にそのような動きは世界的にはあり、昭和大学でも研究レベルですがそのような試みに取り組んでいます。牛由来(牛乳由来)の人工粉乳を用いることによって将来生じる疾病のリスク、その場合にかかる医療費まで考慮すれば、今の人工乳は非常に高い買い物であると表現されていました。
母乳バンクや他人の母乳由来の粉ミルクをあげることは、もしかしたらやや抵抗を感じる方もいるかもしれません。しかし母乳バンクば世界的にはむしろ標準になりつつあり、牛の乳を飲むことは当たり前、必要なら輸血も当たり前という現状を考えれば、ただの杞憂なのではないかと思います。赤ちゃんの将来の健康を守るために、よりよい栄養管理方法みつけ、それを実現できるシステムを作っていく必要があると感じました。