嬢王蜂の餌は何かをご存じだろうか?働き蜂やオス蜂が蜜を餌としてるのとは異なり、嬢王蜂はローヤルゼリーを主食としている。嬢王蜂は遺伝的には働き蜂と同じであるにもかかわらず、生後ローヤルゼリーを与えられ続けることで、働き蜂よりかなり大きな体型となり多くの卵を産めるようになる。このような変化はどのようなメカニズムで生じているのだろうか?単に栄養価が高いという理由で、遺伝的には同じ蜂にそのような変化が生じるのだろうか?
ローヤルゼリーにはDNAの低メチル化作用があることがわかっている。DNAのメチル化とは遺伝子の発現部位を調節するエピゲノム変化の一種である。通常、葉酸補充や精神ストレスによって生じたDNAのメチル化は、その領域の遺伝子発現を抑制する方向に働く。逆にDNA低メチル化は、その領域の遺伝子発現をonにする役割を担う。そのため、ローヤルゼリーによってDNAの脱メチル化が生じると、遺伝子発現が活性化することになる。これまでの研究から、嬢王蜂がローヤルゼリーを食べ続けることによって生じる体質変化は、このDNAの脱メチル化によって生じることが判明した。これは出生後に摂取する食事(食餌)によって後天的なエピゲノム変化とそれに伴った体質変化が生じうることを示すよい例である。
参考文献) Kucharski R, et al. Science 2008; 319: 1827-1830.