「三つ子の魂百まで」という言葉は、みなさんご存知のように「幼いころの性格は年をとっても変わらない」ことを表す諺です。最近の研究では、DOHaD学説と関連してこの諺を裏付けるような報告がなされています。もちろん性格は生まれもった遺伝的な情報に左右される部分も多いのでしょうが、母親の妊娠期間から生後早期までの環境要因の影響も強くうけることが示唆されているからです。
特にDOHaD学説と関連して注目したいのは、妊娠期の母体への心理的/経済的ストレスが児の神経学的予後や性格形成に大きな影響を与えているという報告です。妊娠中の母体へのストレスは、児の否定的な情動行動(たとえば新しい経験に対する適応力の低下、恐怖や嫌なことに対する耐性の低下など)と関連していることが報告されています。こういった母体の妊娠中のストレス環境は、児の認知力など知的能力にも影響を与えることが示唆されているのです。こういった関係性が生じるメカニズムの詳細はわかっていませんが、ステロイドへの暴露や酸化ストレスとの関連などを指摘する声があります。
出生後の虐待なども同様に性格変化に関与することを調査した報告もあります。これについては下記の過去の記事をご参照ください。
上記のような事実を、早産低出生体重児に当てはめてみると、早産低出生体重児において発達障害が多い理由もわかるような気がします。早産低出生体重児は出生体重や週数が未熟なほど、出生後に長期間にわたって集中管理を必要とします(これはおそらく相当のストレスです)。感染症に罹患することも多く、彼らが出生後に暴露されるストレスは計り知れないものがあると推測されます。近年の目覚ましい新生児医療の発展に伴って、未熟性の強い児の救命が可能となり、脳室内出血や脳室周囲白質軟化症などの重大な合併症のリスクも以前と比較すれば小さくなりました。しかし、一見合併症をもたないような未熟性の強い児が、将来発達障害を生じるリスクが一般の児よりかなり高いことは、彼らが生後NICUでうける過大なストレスと無関係ではないのかもしれません。
”ディベロップメンタルケア”という概念をご存知でしょうか?この考え方は、早産児の脳の発達とQOLの改善を目的に、Heidelise Als先生らを創始者として発展してきたものです。日本ディベロップメンタルケア研究会の言葉を借りれば、「NICUの臨床において、あたたかい心をはぐくむやさしさの医療と看護、適切な発達を促す環境と刺激、親子の関係性をはぐくむことを基本理念とする」旨が示されています。この概念はDOHaD学説が注目される以前からある概念ですが、まさにDOHaD学説はこの概念を科学的に裏付けすることができる可能性があるのではないかと思います。早産児におけるNICUでの理想的な成育環境を考えるという取り組みは、DOHaDと臨床をつなぐ大きなテーマになりうるのではないでしょうか。
参考文献)
1. Gartstein MA, et al. Studing infant temperament via a revision of the Infant Behavior Quertionnaire. Infant Behav Dev 2003; 7: 517-522.
2. Brand SR, et al. The effect of maternal PTSD following in utero trauma exposure on behavior and temperament in the 9-month-old infant. Ann N Y Accad Sci 2006; 1071: 454-458.
3. Lin B, et al. Maternal prenatal stress and infant regulatory capacity in Mexican Americans. Ingant Behav Dev 2014; 37: 571-582.