第7回日本DOHaD学会でBerthod Koletzko先生の特別講演を聴いて
特別講演1 (共催 : バイエル薬品株式会社)
題名:The importance of micronutrients during perinatal period
演者:Berthod Koletzko (University of Munich Medical Center, Munich, Germany)
【発表内容の紹介(聴講して感じたこと)」
妊娠女性では葉酸やビタミンD、ビタミンB12、鉄やヨウ素などの微量栄養素の需要が増加するため、しばしばその不足が問題となります。その中でも葉酸は、DNAの合成や、DNAのメチル化に必要な栄養素であり、その不足は非常に重大な意味をもちます。DNAのメチル化は、DOHaD学説において体質変化が生じるメカニズムの根幹をなすものです。一般にDNAのメチル化が生じると、そのDNAの発現は抑制され、逆に脱メチル化によってその発現は活性化されます。つまり、葉酸不足でメチル化が生じにくくなると、通常行われる遺伝子発現の抑制が生じにくくなるなどの問題が生じる可能性があります。その他にも、葉酸の不足が、胎児の二分脊椎の発症リスクを高めることは、比較的多くの妊娠女性が知る事実ではないかと思います。
Koletzko先生の講演を拝聴して非常に強く印象に残ったのは、日本で葉酸の摂取不足が大きな問題になっているということです。このような事実はDOHaD研究に携わる多くの日本人研究者がすでに耳にしているものではありました。しかし、世界の潮流とは逆行して明確に日本でその取り組みが遅れていることに強い危機感を覚えました。妊娠初期は臓器形成のために非常に重要な時期であり、この時期の葉酸欠乏は二分脊椎をはじめとした様々な先手異常が生じる原因となります。この時期の葉酸不足を防ぐためには、妊娠前から妊娠初期までの間の十分な葉酸摂取が必要です。日本でも妊娠女性も葉酸摂取を積極的にするようになったとは思いますが、実際は妊娠に気づいてから葉酸内服を開始しても、妊娠初期の臓器形成期に間に合わない可能性が高いという事実があります。そのため、世界中の多くの国ではすでに葉酸強化食品の導入などを介して妊娠前の普段の食事からの葉酸摂取を強化することにより、そのような先天異常のリスクを効果的に減少させているのです。翻って日本での現状は、海外のこのような取り組みに対して明らかに遅れをとっているといわざるを得ないと感じました。この問題は、日本DOHaD学会が問題提起していくことも重要ですが、やはり日本全体の問題として行政が優先して取り組むべき問題と思いました。