乳幼児期の褐色脂肪組織と体組成

 脂肪組織には、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞があることをご存知でしょうか?一般に、脂肪組織は過剰になったエネルギーを蓄える役割をもっていますが、これは白色脂肪細胞がもっている機能です。一方、褐色脂肪細胞は新生児や冬眠動物に豊富に存在するとされ、白色脂肪細胞とは逆に脂肪を燃やすことで熱を産生する役割を持っています。すなわち褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞がため込んだ脂肪を燃やし、低体温と肥満を予防する方向に機能することがわかっているのです。褐色脂肪細胞には筋肉系の細胞系列から発生する古典的な褐色脂肪細胞と、寒冷刺激などにより白色脂肪細胞から変化するベージュ脂肪細胞があります。これまで、褐色脂肪細胞を活性化させることにより、肥満やそれを介した代謝合併症のリスクを軽減しようと、多くの研究が実施されています。例えば、唐辛子の辛み成分であるカプサイシンには、白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞化を促進する作用をもつことが過去の報告から示唆されています。

 最近、出生から生後6か月の間の褐色脂肪組織の変化と、この間の筋組織の発達との関係を調べた検討が発表されました。この検討によると、この時期の褐色脂肪組織の変化は、白色脂肪組織の増加とは関係しておらず、筋組織の発達と関係している可能性があるようです。すなわち、出生後6か月までの間に褐色脂肪組織が減少する量が少ない方が、この時期の筋組織の発達が生じやすいことが示唆されています。一般に、筋組織の発達にとってもっとも重要なのは、運動による筋肉への負荷です。しかし乳児期早期の運動量には個人差がさほどないので、他のメカニズムによる筋肉量の調整が行われていると考えられています。今回のこの報告は、この時期の褐色脂肪細胞がその働きの一部を担っていることを示唆するもので非常に興味深い結果です。というのも、早産低出生体重児は、筋肉量が少なく、体脂肪率が高いことがわかっています。これは、早産低出生体重児における将来の生活習慣病リスクに大きな影響を与えている可能性があるのです。現在のところ、褐色脂肪細胞の減少や機能低下が早産低出生体重児の筋肉量減少に関与しているかどうかは不明です。今後の更なる研究に期待したいところです。

Ponrartana S, et al. Changes in brown adipose tissue and muscle development during infancy. J Pediatr 2016; 173: 116-121.

2017年05月18日