中野有也先生がm3.com Web講演会ででDOHaDと関連した発表をしました。
特別講演 全ての小児科医に知ってほしいDOHaD学説の考え方
~小児科医の立場で考える患者さんのためにでできること~
提供:ノボノルディスクファーマ株式会社

生Web配信です。内容は1. DOHaD学説の概念を知ろう、2. 低出生体重児とヒト倹約型業原型、3. 小児科医の立場でできること、をお話ししました。Web配信の強みをいかして、予想以上に多くの先生方にご視聴いただけました。質問も多く頂戴しましたが、時間の関係で全ての質問にお答えすることができませんでしたので、以下に質問の内容と回答を紹介したいと思います(回答はあくまでこの時点の知見に基づいたものです)。
質問1 脂肪細胞の数を推定する方法はあるのでしょうか?
回答:
脂肪細胞の数を簡便に推測する方法は私の知りうる限り限りありません。体全体の脂肪組織の量(体脂肪量)は、脂肪細胞の数と平均の大きさで決定されると考えられています。そのため、体脂肪量と脂肪細胞の平均の大きさがわかれば、そこから脂肪細胞の数の多い/少ないを推定することができると考えられます。私がおこなった最近の研究では、低出生体重児では乳幼児期に体脂肪量が増えていないにも関わらず、脂肪細胞の平均の大きさが大きい傾向が明らかとなりました。これはおそらく、低出生体重児では脂肪細胞数が少ないことを意味しているのではないかと解釈しています。同じ脂肪細胞数をもっていると仮定した場合、脂肪細胞が大きい低出生体重児では全体として体脂肪量が多い(太っている)必要があるからです。
しかしこのような方法での脂肪細胞数の評価は、実際に脂肪組織をいただいて評価する必要があるので、日常診療ではハードルが高い方法です。一方で、早産児の場合は予定日周囲のアディポネクチンが脂肪細胞数を推定するのに役立つのではないかと考えています。アディポネクチンは脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンで、脂肪細胞数が増えるとその分泌能が増しますが、脂肪細胞の肥大が起こると分泌能が低下することが分かっています。実際に過去に私たちが行った研究では、早産児における予定日周囲のアディポネクチンは体脂肪量と正の相関を示し、通常の小児や成人で認められる肥満とは逆の関係が認められました。肥満では、通常脂肪細胞の肥大に伴いアディポネクチン分泌能が低下します。予定日周囲まではあまり脂肪細胞の肥大が起こらないことがその原因と推測されています。もちろんアディポネクチンは遺伝低体質によってそのもともとの分泌能が変化しますので、アディポネクチンのみで体全体の脂肪細胞数を決定することは不可能ですが参考にはなると思います。
質問2 SGA児には乳幼児期にcatch-up growthが見られる児とそうではない児がいますが、それを生後早期に推測する方法はありますか?
回答:
明確に推測する指標はありません。しかし早産SGA児では、正期産SGA児と比較すると、明らかにcatch-up growthがみられにくいことがわかっています。正期産SGA児の3歳までの身長のcatch-up率は9割以上であり、その多くが6か月~1歳には成長曲線の枠内に入ります。早産SGA児は週数にもよりますが、より未熟な児では3歳までの身長のcatch-up率は7~8割程度といわれています。そもそも超早産児(在胎28週未満で出生した児)の成人身長は、-0.5~-1.0SD付近であるとの報告がありますから、SGA・AGAにかかわらず、早産の程度が強いほど低身長のリスクが高い(catch-upしにくい)ことを意味しているのではないかと考えています。また、SGAの中でも、出生時の体重/身長SDスコアが小さいほどcatch-up率が低いことはいくつかの研究から示唆されていますし、臨床の場でも実感するところであります。
このように、出生時の在胎週数が未熟なほど、また体重/身長SDスコアが小さいほど、将来のcatch-up率が低下するのはなぜなのでしょうか?これは講演でもお話ししましたが、そのような児がより強く【倹約表現型】の性質(体質)を獲得した結果であると私は考えています。このような児の特徴は成長のポテンシャルの低下と体組成の変化(筋肉量の低下、体脂肪率の上昇)であり、体組成の評価が将来のcatch-up率の推測に役立つかもしれません。また、SGA児における成長のポテンシャル低下は成長ホルモンへの感受性低下に伴い、IGF-1が産生されにくいことが一因になっており、このメカニズムを解明することが将来のcatch-up率を推測するのに役だつのではないかと考えています。
質問3 未熟児で生まれた児の乳児期の栄養指導(乳汁や離乳食など)について、どのようにしたらよいか迷うことがあります。気をつけるべきことはありますか?
回答:
このような悩みをもつ小児科医の先生は実際多いのではないかと思います。低出生体重児の成長と発達、将来の生活習慣病のリスクとの関係は表裏一体な部分があるからです。一般に、SGA児では体格がcatch-upする方が将来の発達が良好になりやすいことが分かっています。一方で、乳児期の急進なcatch-upは将来の肥満リスクを高めることも広く知られています。私は重要なことは”成長の質”であると考えています。catch-upの本質がlean
body massの増加であるならそれは神経学的予後改善につながる可能性が高いと推測されますが、一方で体脂肪量の増加に伴う体重増加は必ずしも神経学的予後改善に寄与しないことが示唆されているからです。カウプ指数は乳児期の体脂肪蓄積を簡便に推測できる指標ですので、参考になると思います。カウプ指数が上昇しているなら、仮に身長のcatch-upがいまだおこっていないのだとしても、それ以上を栄養摂取量に求めるのは現実的ではありません。太らせているだけだからです。また、低出生体重児では、見た目以上に(カウプ指数以上に)体脂肪蓄積が進んでいる場合もあり注意が必要です。筋肉がつきにくいので”やせ肥満”となりやすく、カウプ指数では体脂肪蓄積を過小評価しやすくなります。キャリパーなどを用いた皮脂厚測定もおこなうと参考になるかもしれませんん。
特に重度のSGA児/EUGR児の中には、極端に大きくなれない児/太れない児がいることを経験します。このような児の中には、摂食障害の判断で経管栄養(胃管からの注入)を併用されている児もいるようです。しかし実際のところは、大きくなれない体質が問題なのであって、彼らがミルクを飲まないのは体が必要としていないことが主な理由です。このような児に経管栄養でミルクを過剰にあげることは、単純に太らせているだけで、それは神経学的予後改善につながらないばかりか、肥満リスクを高めている可能性があります。もしくは、このような児では経管栄養でミルクをあげても太れなかったり、高脂血症をきたすことも経験しています。
低出生体重児の栄養評価は、その児の生まれた周産期歴と成長の推移、体組成を推測しながら、個別におこなうことが求められると考えています。現在はまだぼんやりしていますが、今後より参考になるような指標を見つけていければと考えています。
※質問とそれに対する回答は他いもいただいています。適宜その紹介を追加いたします。