第18回新生児栄養フォーラムで板橋家頭夫先生の特別講演を聴いて
特別講演
座長:和田 和子 先生(大阪母子医療センター新生児科)
演者:板橋 家頭夫 先生(昭和大学病院 病院長)
題名「早産低出生体重児の栄養管理 -現状と展望-」
【発表内容の紹介(聴講して感じたこと)」
新生児栄養フォーラムは今回で第18回を数えるまでとなり、今でこそ参加希望者も多く会場も満席状態となっていますが、板橋家頭夫先生が中心メンバーの一人として始められた当初は今ほど早産低出生体重児に対する栄養管理が重要視されておらず、呼吸管理や循環管理などと比較して人気のない分野だった様です。板橋家頭夫先生のご講演は早産低出生体重児に対する栄養管理が過去にどのように考えられ、その戦略がどのように進歩してきたのか、その歴史を感じさせるものでした。様々な進歩があり死亡率は大幅に改善しましたが、その一方で長期予後の問題を考えれば現状は決して満足できる状況にはなく、むしろ問題は山積していると感じているのではないかと思います。
極低出生体重児に対して生後早期から十分な栄養をとのコンセプトからはじまったEarly Aggressive Nutritionが開始され子宮外発育不全(EUGR)発生率がずいぶんと改善した一方で、Lean Body Massが反映する身長や筋肉量などの増加は不十分であり、これが神経学的予後にも関連していることが紹介されました。十分な栄養摂取をめざして母乳強化パウダー(HMS-1 HMS-2)を使用していますが、それでは母乳中の蛋白濃度の個人差や経時的変化に対応することができず、それには蛋白の個別強化が有用であること、個別強化の方法としては母乳分析器を用いたtarget fortificationと血清BUN値に基づいたadjustable fortificationがあり、両者には同等の効果が期待でき、従来からの標準強化と比較して目標となる身長SDスコアの改善が得られたことなどが紹介されました。また、生後早期からの十分な栄養摂取を実現するための母乳早期強化の研究の紹介、体組成を評価するための新しい医療機器(PEA POD)についての紹介などもなされました。一方で、これまでは栄養摂取量を十分にすることに主眼がおかれてきましたが、栄養を有効利用できない他の要因(感染や炎症など)を同時に解決していくことが、児の成長を正常化するのに重要である可能性が高いこと、海外で行われているIGF-1リコンビナント製剤投与の研究の紹介なども行われました。
板橋家頭夫先生は今年3月に昭和大学小児科学講座の主任教授を退官され、現在は昭和大学病院の病院長としてご活躍されております。新生児栄養分野のこれまでの取り組み、その灯を我々の世代が守っていかなくてはいけないと強く感じるご講演でした。