NICU(新生児集中治療室)は早産低出生体重児にとっても非常に特殊な環境であるといえます。本来であれば、彼らが成育する環境はストレスの少ない子宮内だからです。しかし、早産低出生体重児として生まれた彼らは、その週数・体重が未熟であればあるほど、様々な疾病リスクや合併症に対してのマネジメントが必要になったり、時には何らかの介入をせざるを得ないことがあります。そのなかには痛みを伴うような処置や侵襲的な治療もあり、彼らは生きていくためにそのような処置をある程度受けざるを得ないのが現状です。このような痛みを伴う処置は、早産低出生体重児の将来に何らかの影響を与えているのではないか、ということについて調べた研究がいくつかあります。
比較的最近報告されたシステマテックレビューによれば、超早産児では、痛み刺激を伴う処置を受けた数数が多ければ多いほど、生後の成長が遅れる傾向にあり、小児期の発達障害のリスクも高くなることが指摘されています。また、そのような児では、小児期の脳の発達、特に大脳皮質の発達(厚さ)に違いが認められるようです。妊娠中の母体への過剰なストレスが、生まれていくる児の認知力など知的能力に影響を与えることを示唆する文献を過去に紹介しましたが、同様の機序が関与しているのでしょうか・・・・。NICUでの痛み刺激が将来の児の予後に与える影響については、もっと長期的な予後への影響も含めて十分な検討はなされていないので、これらを明らかにすることは今後の一つの課題となるでしょう(関連する記事については下記をご覧ください)。
参考文献)
Valeri BO, et al.Neonatal pain and develomental outcomes in children born
preterm: a systematic review. Clin J Pain 2015; 31: 355-362.
現在「NICUに入院する新生児を痛みから可能な限り護ろう」という動きは日本にもあり、2015年1月に日本新生児成育医学会を通して、「NICUに入院している新生児の痛みのケアガイドライン」が作成されました。
このガイドラインの提言をを一部紹介すれば、「人をケアするということは、その人をかけがえのない存在としてとらえ、尊敬、理解し、その人を支え、世話をする、さらには、その人との一体感を持つことである。新生児は言葉を持たない、それ故に、新生児をケアする者には、新生児が置かれている状況や立場に立ち、新生児が発する生理・行動上のあらゆる表現を通して、心身の有り様をわかろうとする努力が必要である。したがって、専門職としてチームを構成する医療者は、新生児が経験する痛みをどのように捉え、家族とともにどのように関わっていくべきか、互いの経験を分かち合い、科学的な学びを深め合うことを通して、他者理解と尊重、利他を重んじる価値観を自らのうちに育て、専門職としての責任を果たしていくことが重要である」というようなことが書かれています。
このガイドライン作成の背景には、新生児の人権を守ろうというような趣旨が強く感じられます。それ自体は大変重要でもっともではあるけれど、神経学的予後改善という新しい観点で「痛みのケア」を考えることは、我々新生児科医にとっても新たな気づきにつながるのではないでしょうか。NICUでのストレス環境を制御することで、将来の疾病リスクを減らそうという取り組みは、今後のDOHaD研究の一つの重要なテーマになりうると感じますが、現在はDOHaD研究の中でもあまり注目されていないのではないかと思います。今後の取り組むべき大きな課題の一つであると感じています。
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