早産低出生体重児の体組成と計測値の信頼性

 早産低出生体重児は将来、糖尿病や高血圧、高脂血症などのいわゆる生活習慣病を罹患するリスクが高いことがわかっています。一般にこれらの疾病は、肥満や内臓脂肪蓄積に端を発したインスリン抵抗性(血糖を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなっている状態)が関与すると考えられており、肥満や内臓脂肪蓄積を介してこれらの複数の疾病に罹患した状態を、メタボリックシンドロームと呼称します。

 以前の記事でも紹介しましたが、低出生体重児は成人期になっても小柄な人がむしろ多く、糖尿病や高血圧、高脂血症などの疾病を複数罹患していたとしても、肥満症やメタボリックシンドロームの基準は満たさない場合がしばしばあるようです。肥満やメタボリックシンドロームの基準は世界的に統一されておらず、そのことも状況をややこしくしていますが、本邦では腹囲(内臓脂肪を間接的に評価)が診断に重要視されているため、小柄な早産低出生体重児では腹囲は必ずしも大きくならないので、メタボリックシンドロームの診断基準を満たしにくいのではないかと考えられます。最近、「隠れメタボ」が増えていることがニュースになっています。隠れメタボとは、いわゆる肥満ではないのに、糖尿病や高血圧などの異常をもつ人を指して使用されます。このことと低出生体重児の増加している現状、そして彼らのメタボリックシンドローム発症リスクが高いこととは無関係ではないのではないかと思っています。

 

 なぜ、見た目はそれほど太っていない早産低出生体重児出身の方が、生活習慣病に罹患しやすいのか、その詳細はわかっていません。しかし、その理由の一つとして、早産低出生体重児出身の方は”隠れ肥満”が多いことがあげられます。早産低出生体重児の体組成は、筋肉などのLean body massが少なく、体脂肪率が高いことがわかっているからです。そして成人になってもある程度その傾向は続いているようなのです。そのため、早産低出生体重児では見た目はやせていても、意外と体脂肪とくに内臓脂肪が蓄積している可能性があり、それが生活習慣病リスクに関与している可能性があります。また、早産低出生体重児においては、生後早期に体脂肪量蓄積の評価を簡便に行うことが難しいことにも注意が必要です。通常、体脂肪蓄積の評価を最も簡便に行う方法は身体計測です。例えば、Body Mass Index (BMI)は、成人および小児の体脂肪蓄積を推測するうえで世界的に最もよく使われる指標です(乳児期はカウプ指数といいます)。しかし最近の報告では、早産低出生体重児における体脂肪蓄積はBMIではあまり正確に評価できないことが指摘されています。

 それほど太っていない早産低出生体重児出身の方が、将来生活習慣病に罹患しやすいもう一つの理由は、肥満や内臓脂肪蓄積とは異なるメカニズムでこれらの疾病リスクが生じているのではないかということです。これも過去の記事で紹介しましたが、早産低出生体重児は腎臓を構成する単位であるネフロンが生涯少なく、これが慢性腎臓病や高血圧リスクと関連している可能性が考えられています。このことは肥満に伴う脂肪蓄積、特に内臓脂肪蓄積とは無関係な機序です。また、体組成の変化に伴う筋肉量の低下も非常に大きな問題です。実際に、早産低出生体重児(極低出生体重児を対象とした検討)では、成人期になっても筋肉量が少ない傾向があり、それと関連してか基礎代謝が落ちていることが報告されています。

 

 早産低出生体重児における生活習慣病リスクについては、いまだ不明な点が多いのが現状ですが、生後早期の成育環境にその原因の一端があることはおそらく間違いありません。病態が解明されることで、多くの早産低出生体重児出身の方の将来の疾病リスクがコントロールできるようになればと願っております。

 

 

2017年04月10日