進化論で「獲得形質は遺伝するのか」という議論があるのはご存知でしょうか?獲得形質とは生まれつき備わった能力や性質ではなく、必要に迫られて生後に獲得した能力のことです。生後に訓練して足が速くなった場合、お子さんにその足の早さが遺伝するのでしょうか?
次世代に親の性質が遺伝するのは遺伝子(遺伝子配列)によるものですので、生後に獲得した形質は次世代には遺伝しないというのが生物学的な常識でした。生後の環境によって遺伝子の配列は変化しないと考えられているからです。すなわち、生まれつき足の速い体質をもった人は、先祖が代々走る訓練をしてきたからではなく、キリンの首が長いのは代々高いところにある餌を食べているうちに長くなったわけではないということです。
しかし近年DOHaD研究と関連して、遺伝子の発現部位を調整するエピゲノムの働きが解明されこの論争が再度熱を帯びています。DOHaDで生じる疾病リスクの変化は、環境因子(栄養やストレスなど)の影響をうけて、遺伝子の発現部位を調整するエピゲノムに後天的な修飾が起こることで生じると考えられています。そしてこの後天的に生じたエピゲノム変化の一部は世代を超えて伝搬しうることも示唆されています。さらにごく最近の報告によれば、特定の条件下で、獲得形質はRNAを介して遺伝しうることが示唆されています。こういった知見は「獲得形質は遺伝しうる」ことを示唆しており、環境の記憶が次世代に伝搬される新しいメカニズムの探索が現在もなされているのです。
我々の行いが将来の祖先の体質にまで影響を及ぼしているとすれば、みなさんはどのように感じるでしょうか?自分の子孫に大きな迷惑をかけることのないようにしたいものです。