成人期の肥満のリスクが小児期までにある程度決定される理由

 

 肥満の増加は今や世界的な問題です。世界保健機構(World Health Organization: WHO)の報告によれば、18歳以上の成人の39%が過体重であり、13%が肥満であるといいます。一般に肥満は、遺伝要因に加えて、食事や運動などの生活習慣の影響を強く受けて発症するため、いわゆる生活習慣病のひとつと考えられていますが、近年、そのリスク形成に子宮内や生後早期の様々な環境因子も強く関連していることがわかってきています。成人期の肥満のもとは小児期にはすでに形成されていると考えられているのです(これはいわゆるDOHaDの概念で説明されています)。

 肥満は脂肪組織の増大に起因しています。脂肪組織の増大とは脂肪細胞数の増加または脂肪細胞の肥大によって生じていますが、成人期に脂肪細胞の数が多いか少ないかは、小児期までにはある程度決定されていると考えられているのです。例えば過去の報告によると、成人期に肥満である人とやせている人で脂肪細胞の数を比較すると、肥満者の方が脂肪細胞の数が多いことがわかっています。そしてその脂肪細胞が多いという状況は小児期までにはすでに生じていることがわかっているのです。さらに興味深いことに、一度脂肪細胞の数が増えると、減量によってやせても減少しないことがわかっています。やせることによって脂肪組織が減るのは、肥大した脂肪細胞が小さくなるからなのです。つまり、小児期までに脂肪細胞の数が増えると、その傾向は成人期まで続き、かついったん増えた脂肪細胞数は減少しないため、肥満のリスク増大と密接にかかわっている可能性が高いのではないかと推測されるのです。実際に、小児肥満では成人期の肥満につながっていくことが多く経験されます。

 ただ一方で、脂肪細胞の数が少ないことが必ず健康につながるとは限りません。極端な例をあげると、脂肪萎縮性糖尿病という病気があります。この病気では脂肪組織が減少または消失することで、糖尿病などの重大な合併症を引き起こします。脂肪組織は様々なホルモンを分泌する内分泌臓器としても重要であり、脂肪細胞が少ないことにより、糖尿病などを防ぐホルモンが十分に分泌されなくなり、これが病気のリスクにつながるのです。

 帝王切開と肥満のリスクのコラムでも紹介しましたが、腸内細菌叢と将来の肥満リスクの関連も興味深く思います。小児期までの理想的な脂肪組織の発達や腸内細菌叢を得ることが、将来の肥満や関連する病気を防ぐことにつながるメカニズムがもっと詳細に解明されれば、小児期までの食育の重要性がもっと見直されることになるかもしれません。

参考文献)Spalding KL, Amer E, Westermark PO, et al. Dynamics of fat cell turnover in humans. Nature 2008; 453: 783-787.

 

2017年02月17日