第6回日本DOHaD学会学術集会で井村裕夫先生の特別講演を聴いて
特別講演2
座長:福岡 秀興 先生(早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構規範科学総合研究所)
演者:井村 裕夫 先生(京都大学名誉教授・元総長、現在稲盛財団会長、先端医療振興財団名誉理事長)
題名「先制医療、精密医療(precision medicine)とDOHaD」
井村裕夫先生については下記をご覧ください。
【発表内容の紹介(聴講して感じたこと)」
井村先生の特別講演は、主に先制医療の概念を、オバマ元米国大統領が提唱した「精密医療(precision medicine」という概念との類似点や相違点に触れながらわかりやすく説明し、DOHaD研究における今後の道筋を示すような内容でした。現在全世界では高齢者の増加に伴い、加齢に伴う様々な疾病の予防と治療が重要な課題となっていること、この問題を解決するためには個人の遺伝素因や胎生期からの生活環境、病歴などに基づく「個の医療」「個の予防」が大切であり、先制医療はその後者にあたることが述べられました。そして先制医療とは、Non-communicable
diseaseにおいて、発症レベルに達する前に介入しこの発症を積極的に予防するものである点が重要であることが紹介されました。
先制医療の実現に向けて実際の例をいくつかあげられていましたが、印象深かったのはアルツハイマー病に対する先制医療の可能性についてです。少なくともアルツハイマー病の一部では、脳内でアミロイドβ蛋白質が凝集しており、それがアルツハイマー病患者における脳神経細胞の死滅へとつながる可能性が示唆されてますが、これはアルツハイマー病が発症する数十年前から認められはじめます。最近の医療の進歩もあってこれを発症前にPETで検出することが可能であること、これを発症前に治療しうるようになってきたことが紹介されました。現在は同様の状況に陥ってもアルツハイマー病を発症する人としない人との違いを区別することが難しいようですが、さらにその病態が明らかとなればこの分野の「先制医療」が実現できるかもしれません。
講演ではその他にも、大気汚染と自閉性スペクトラム障害との関係について、学歴とアルツハイマー病リスクについて、虐待やストレスと脳のコネクトーム障害について、など非常に興味深いお話しを多数聴くことができました。先制医療実現のための課題はいまだ多いのが現状ですが、それに見合うだけの魅力がこの分野にある事を再認識しました。
虐待とDOHaDについての過去の記事は下記をどうぞ。